2025年12月、米国コロラド州の停電により、インターネット時刻配信の中心を担うNTPサーバーが「正確な時刻を配信できない可能性」まで追い込まれるインフラ危機が発生しました。
NTPはネットワーク上のあらゆる機器が正確な時間を保つための大黒柱であり、このままではコンピュータやスマホ、重要インフラの時計までもが狂う恐れがありました。
本記事では、NTPとは何か、なぜ危機が起き、どう回避されたのか、そして日本ではどう影響が出たのかを初心者にもわかりやすく解説します。
目次
NTPサーバーとは?
私たちの手元のスマホやパソコンは、ネットワークを通じて 正確な「時刻」をインターネット上のサーバーから取得し、常に正しい時間を刻む仕組み を持っています。これを実現しているのが NTP(Network Time Protocol) です。NTPは世界中のコンピュータが 「協定世界時(UTC)」 を基準にして時計を合わせるための仕組みで、インターネットの根幹サービスの一つです。ストラタム(階層)という仕組みを使い、最上位のサーバー(Stratum1)が原子時計やGPSを基準として正確な時間を配信し、それを下位のサーバーや端末が受け取って時計を合わせていきます。複数のサーバーを参照することで精度と信頼性を保っています。ウィキペディア
なぜNTPサーバーが危機に陥ったのか?
2025年12月17日、米国の 国立標準技術研究所(NIST)ボルダーキャンパス で停電が発生し、そこで運用されていた複数の NTPサーバー が 一時的に正確な時刻を提供できなくなる危機に陥りました。 Tom's Hardware

この停電によって、原子時計に基づくNTP時刻参照システムが 信頼できる時刻を返せない状態 となり、システムによっては誤った時刻を返す可能性があることが NIST側から警告されています。主な影響を受けたのは time-a-b.nist.gov ~ time-e-b.nist.gov、及び ntp-b.nist.gov などのサーバーで、数マイクロ秒単位のずれが生じました。Tom's Hardware
この問題は最悪のケースでは 世界中のインターネットデバイスが正確な「時間」を失い、ログ記録・通信認証・金融取引・セキュリティ機能などさまざまなシステムが影響を受けかねないという深刻なリスクをはらんでいました。GIGAZINE
危機をどう回避したのか?
幸い、以下のような複数の仕組みや対策が働いたため、世界的な時刻狂いの大災害は回避されました:
多重化された時刻ソースの存在
NTPでは複数の時刻サーバーを参照するのが普通で、クラウド企業や地域ごとの分散型プール(例: pool.ntp.org)など NIST以外の時刻源が十分に存在 しています。これらがバックアップとして機能したことで、致命的な時刻ずれは避けられました。
主要参照値の維持と自動切換え
NIST側でも問題のあったサーバーを順次オフラインにして、他の正常なサーバーへの切り替え を進めています。これにより、クライアント側が誤った時刻を受け取るリスクが低減されました。Tom's Hardware
時刻誤差の影響が微小だった
実際の影響はわずか 数マイクロ秒(百万分の数秒)程度 のずれであり、人間が日常的な時計を見るレベルでは体感できない誤差でした。この程度のずれはネットワークの仕組み側で補正されることも多く、致命的な現象には至りませんでした。Tom's Hardware
日本では大丈夫だったのか?
日本国内でも 標準時を提供する機関(例:NICTなど)が独自の NTPサーバー を運用しています。
これらは NISTなど海外の時刻源とは独立しており、通常は GPSや自前の原子時計などからUTC基準の配信を行っています。したがって、NIST側の停電による影響が 直接的に全国のデバイス時計を狂わせることはありませんでした。
しかし一般的なISPやインターネットサービス、クラウドを利用する機器の多くは国際的なNTPプールや複数の時刻サーバーを参照するため、今回の危機でも自動的に他の参照ソースに切り替わったため大きな問題には至りませんでした。
NTP危機から学ぶこと
今回の事例から学べる大きな教訓は、以下のようなものです:
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単一の時刻源への依存を避けるべき
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複数のNTPソースの冗長化設定が重要
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時刻ズレはセキュリティやログに深刻な影響を与えることがある
NTPは一見地味ですが、インターネットの安全性やサービスの信頼性を支える重要インフラです。今回の危機はなお多くのIT管理者やユーザーにとって貴重な教訓となりました。
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