ネットの百科事典が、ただ「誰でも編集できる」という枠を超えて、AIによって“替えられようとしている”。
10月27日、イーロン・マスク率いるAI企業xAIが立ち上げた「Grokipedia」は、既存のWikipediaの持つ仕組み・編集文化・思想的偏向を“払拭する”という野望の元に生まれた。
だが、百科事典という“知の土台”をAIが再構築するという試みは、信頼性・検証性・透明性といった根本的な問いを突きつけている。
この記事では、Grokipediaの特徴と課題、そして私たちが知識をどう受け取るかに影響を与えるその衝撃を読み解く
目次
Grokipediaとは何か?
Grokipediaは、xAIが開発する言語モデル「Grok」を用して自動生成・編集されるオンライン百科事典です。マスク自身が「Wikipediaは偏っている」「“プロパガンダ”が混ざっている」と指摘し、Grokipediaはそれを正す“より中立的・事実重視”のプラットフォームとして設計されたと報じられています。
ビジネススタンダード+2ニューヨーク・ポスト+2
公開初日には記事数が約90万件に達し、編集体制・規模共にWikipediaとはまだ大きな差があるものの、構想のスケールは明確です。 Axios+1
We are building Grokipedia @xAI.
Will be a massive improvement over Wikipedia.
Frankly, it is a necessary step towards the xAI goal of understanding the Universe. https://t.co/xvSeWkpALy
— Elon Musk (@elonmusk) September 30, 2025
Wikipediaとの違い・特徴
① AI生成 vs コミュニティ編集
Wikipediaは数千~数万のボランティア編集者による手作業の蓄積で成り立っています。
一方、GrokipediaはAIが記事生成・編集の核を担っており、人間編集者の関与は限定的。いわば「自動百科」の位置づけです。
ビジネススタンダード+1
② 偏向・バイアスへのアプローチ
マスクはWikipediaを「左寄り」「目に見えないバイアスがある」と批判しています。
Grokipediaはこの批判に応える形で「偏りを排除し、真実を提示する」と宣伝されています。
Cadena SER+1
ただし、既にGrokipedia内の記事に「Wikipediaからそのままコピーされた」ものがあるという報道もあり、透明性・オリジナリティの観点で疑念も出ています。
The Verge
③ スケール・公開状況
起動時点で約90万記事という数字は、Wikipediaの多言語版に比べると小規模。利用者数・編集多様性・歴史的蓄積ではまだ差があります。
さらに公開時にはアクセス障害も報じられています。
Axios
④ 運営体制・ライセンス
Grokipediaの一部の記事には「Wikipediaより適用のクリエイティブ・コモンズ」ライセンスがある旨の注記がありますが、モデルの訓練データや編集ポリシー・透明な検証過程については明確な公開が少ない状況です。
ウィキペディア
評価・論点:何が期待され、何が懸念されるか
✅ ポジティブな見方
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編集ボランティアが少ない分野や言語で迅速に百科事典を充実させる可能性。
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AIによる統合検索・要約・参照の提示が、知識アクセスの効率を高める予想。
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Wikipediaでは扱いにくかったテーマや視点を、より柔軟に含められる可能性。
⚠️ 懸念される点
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AI生成ゆえの「ファクトチェックスキップ」「誤情報・バイアスの再生産」。大手メディアが既に「AIは偏りを内包しうる」と指摘しています。
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編集・検証体制が曖昧なままでは、信頼性・透明性が低下する危険。Wikipediaのような“誰でも検証・修正できる”開放性が担保されるのか疑問です。
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知識の「所有構造」「編集権」の変化。誰が編集し、どの視点を反映させるかがプラットフォームの骨格を決めるため、思想的・政治的影響が強く出る可能性があります。WIREDは、「Grokipediaは既に“極右の話法”を含んでいる」と報じています。 WIRED
日本での公開・展望
現時点ではGrokipediaの日本語版については明確な発表はありません。マスクおよびxAIは英語圏を中心に運用を開始しており、日本語対応・国内法制・編集文化の構築には時間を要すると思われます。
ただし、もし日本で普及すれば、Wikipedia日本語版と存在意義・編集体制・参照信頼性を巡る競争・補完関係が生まれ、ユーザーとしては“どちらを信じるか”“どちらを使い分けるか”が新たな視点になりそうです。
また、日本の出版・教育・検証文化を背景に、AI百科事典の質保証・誤情報対策・ライセンス運用が改めて問われるでしょう。
結びに
Grokipediaは、Wikipediaというインターネット知識基盤に対する“挑戦状”とも言えるプロジェクトです。
それが意味するのは単なる“もう一つの百科事典”ではなく、知識構造・情報流通・編集文化の転換かもしれません。
しかしながら、情報の中立性・検証可能性・利用者の信頼をどう守るか。
AIによる知識生成が進む今、私たちが問うべきは「知っているか」ではなく「どのように知るか」です。
参考リンク
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Elon Musk launches a Wikipedia rival that extols his own ‘vision’ — The Washington Post The Washington Post
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How different is Elon Musk’s AI-powered ‘Grokipedia’ from Wikipedia? — Business Standard ビジネススタンダード
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Elon Musk’s Grokipedia contains copied Wikipedia pages — The Verge The Verge
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Grokipedia: Elon Musk’s Wikipedia alternative announced — New York Post ニューヨーク・ポスト
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Krig om “Wokipedia” – Musk startar utmanare — Svenska Dagbladet SvD.se
