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IT小僧の時事放談

宇宙光通信とは?NTTがアイルランドMBRYONICSと協業「IOWN」がついに宇宙へ

「ネットはすでに宇宙へと向かっている」――この言葉が、いよいよ誇張ではなくなってきました。スターリンク(Starlink)など先行企業が宇宙空間で通信網を張りめぐらせるなか、国内のキャリアも宇宙との通信に本腰を入れ始めています。

そんななか、NTTは2026年6月4日、宇宙向け光通信プラットフォームを開発するアイルランドのエムブリオニクス(MBRYONICS)と、宇宙向け光通信分野でのパートナーシップに関する覚書(MoU)を6月3日に締結したと発表しました。NTTが推進する次世代情報通信基盤構想「アイオン(IOWN)」の技術を、宇宙ビジネスへ広げる取り組みです。

本記事では、IT小僧が「そもそも宇宙光通信とは何か」「相手のエムブリオニクスとはどんな会社か」「アイオンとは何か」をわかりやすく整理し、さらに米国を中心とした宇宙光通信の今後の動きまでまとめて解説していきます。

この記事の目次

1. 「宇宙光通信」とは何か?
2. NTTとアイルランドのMBRYONICSが協業 その中身
3. MBRYONICS(エムブリオニクス)とはどんな会社か
4. 次世代情報通信基盤構想「IOWN(アイオン)」とは
5. ネットはすでに宇宙へ 米国を中心とした最新動向
6. IT小僧の本音コラム
7. まとめ

「宇宙光通信」とは何か?

宇宙光通信とは、電波(マイクロ波)ではなくレーザー光を使って、衛星と衛星のあいだ、あるいは衛星と地上のあいだでデータをやり取りする通信技術です。地上で言えば、銅線(メタル回線)から光ファイバーに切り替わったときの「あの大ジャンプ」を、宇宙空間でもう一度やろうという話だと考えるとイメージしやすいでしょう。

なぜ今、宇宙で光なのか。理由はシンプルで、衛星コンステレーション(多数の小型衛星を連携させる群衛星網)が爆発的に増え、宇宙空間を流れるデータ量がもう電波だけではさばききれなくなってきたからです。レーザー光は電波に比べて圧倒的に多くの情報を一度に運べるうえ、ビーム(光の束)が細く絞られるため傍受されにくく、周波数免許の取り合いからも解放されます。

電波方式と光方式のちがいを、ざっくり表にまとめておきます。

比較項目 電波(RF)方式 光(レーザー)方式
通信容量 数十Mbps〜数Gbps程度 数十〜数百Gbps(桁ちがいに大きい)
傍受されにくさ 広がるため傍受されやすい ビームが細く傍受されにくい
周波数免許 必要・取り合いになる 不要
弱点 容量に限界がある 雲・雨・大気のゆらぎに弱い(地上との間)

ポイントは最後の行です。宇宙空間(真空)どうしなら光はめっぽう強いのですが、地上との間では雲や雨、大気のゆらぎに邪魔されます。だからこそ、いまSpaceXなど多くのプレイヤーは衛星どうしの接続を光に、地上との接続を電波に、と使い分けつつ、その地上との間も光化しようと技術開発を競っているわけです。

NTTとアイルランドのMBRYONICSが協業 その中身

今回の覚書のキモは「NTTの技術」と「エムブリオニクスの技術」を掛け合わせる点にあります。具体的には、エムブリオニクスが、NTTの研究開発してきたデジタルコヒーレント技術を載せた光トランシーバモジュール(電気信号をレーザー光に変換して送受信する機器)を開発します。

NTTの発表によれば、このモジュールを使うことで、宇宙空間における通信は従来方式に比べて10倍以上の通信速度向上が可能になるとされています。覚書の要点を整理します。

項目 内容
締結日 2026年6月3日(発表は6月4日)
形態 パートナーシップに関する覚書(MoU)
NTTが提供 デジタルコヒーレント技術・光通信/信号処理の研究開発成果
MBRYONICSが開発 上記技術を搭載した光トランシーバモジュール
効果 従来比10倍以上の通信速度向上
事業ブランド NTTグループの宇宙ビジネス「NTT C89」

開発されたモジュールは、商用化が予定されている複数の宇宙向け光通信端末(OCT)に組み込まれる予定です。つまり「研究室のデモ」で終わらせず、実際に売り物として宇宙に飛ばすところまで見据えた話だ、という点に注目しておきたいところです。

NTTはこの取り組みを、自社の宇宙ビジネスブランド「NTT C89(CONSTELLATION 89 PROJECT)」の事業拡大に位置づけています。地上の光ファイバー網で世界トップクラスの技術を持つNTTが、その蓄積を宇宙に持ち込む――構図としては実に理にかなっています。

MBRYONICS(エムブリオニクス)とはどんな会社か

日本ではほとんど知られていませんが、エムブリオニクスはアイルランド最大の宇宙関連(フォトニクス:光技術)企業です。2014年にゴールウェイで創業した、まだ若い会社ですが、宇宙のレーザー光通信という尖った領域で確固たる地位を築いています。

同社の基本情報を押さえておきましょう。

項目 内容
本社 アイルランド・ゴールウェイ
創業 2014年(マッキー三兄妹が設立)
事業領域 衛星向け光通信ハード・ソフト、光地上局
製品 光通信端末「StarCom」、25〜800Gbps対応プラットフォーム
生産拠点 Photon-1(ゴールウェイ)、Photon-2(シャノン)
従業員 約140名(2026年末に225名へ増員予定)
主な後ろ盾 欧州宇宙機関(ESA)、欧州イノベーション会議(1750万ユーロ出資)

同社のトランシーバプラットフォームは25〜800Gbpsに対応し、主要な宇宙光通信規格すべてに準拠できるのが強みです。これにより、LEO(低軌道)、MEO(中軌道)、GEO(静止軌道)といった、高さのちがう衛星群どうしを相互接続する役割を担えます。会社のスローガンが「宇宙にインターネットをつくる」というのも、誇張ではないわけです。

注目しておきたいのは、エムブリオニクスがESAの全光衛星データ網「HydRON」や、欧州連合(EU)の衛星コンステレーション計画「IRIS²」にも関わっている点です。欧州の宇宙インフラの中核に食い込んでいる企業を、NTTがパートナーに選んだ――この座組みには明確な戦略が読み取れます。

次世代情報通信基盤構想「IOWN(アイオン)」とは

IOWN(アイオン)は、NTTが旗を振る次世代の通信・計算基盤の構想で、正式名称は「Innovative Optical and Wireless Network(革新的な光・無線ネットワーク)」です。ざっくり言えば「これまで電気でやっていた処理を、できるところからどんどん光に置き換えていく」という壮大な計画です。

なぜ光なのか。電気の信号は流すたびに熱を出し、電力を食います。データ量が指数関数的に増えるこれからの時代、電気のままでは消費電力が爆発してしまう。そこを光で置き換えて、桁ちがいの低消費電力・大容量・低遅延を実現しよう、というのがIOWNの狙いです。進化の道筋はこうなっています。

段階 主な内容 時期の目安
IOWN 2.0 基板間を光配線化する光エンジン(PEC-2) 2026年度に商用提供予定
IOWN 3.0 半導体パッケージ間を光化する光チップレット 2028年に商用サンプル提供
IOWN 4.0 パッケージ内部の配線まで光化(電力を1/100へ) 2032年ごろ

そして今回の協業の主役が、IOWNを支える「デジタルコヒーレント技術」です。これは、光の明るさ(点滅)だけでなく、光の波としての性質――山と谷のタイミング(位相)や振動の向き(偏波)――まで使って情報を運ぶ通信技術のこと。同じ1本の光でより多くの情報を詰め込めるため、地上の長距離光ファイバー網ではすでに当たり前に使われている屋台骨の技術です。

NTTは、この地上で鍛え上げた信号処理技術を、そっくり宇宙のレーザー通信に持ち込もうとしているわけです。「IOWNが宇宙へ」というキャッチコピーは、まさにこの一点を指しています。

ネットはすでに宇宙へ 米国を中心とした最新動向

NTTの動きを正しく評価するには、世界、とくに米国がどこまで進んでいるかを知っておく必要があります。結論から言えば、宇宙の光通信は「これからの技術」ではなく「すでに動いている技術」です。

◆ SpaceX(スペースX)/スターリンク:すでに数千の光端末が周回中

スターリンク衛星は1機あたり複数のレーザー端末(衛星間光リンク)を搭載し、数千を超える光端末がすでに軌道上で稼働しています。衛星どうしを最大100〜200Gbpsの光でつなぎ、地上の基地局を経由せずに長距離をバケツリレーする仕組みです。さらに同社は、自社以外の衛星ともレーザーで接続できる端末の開発に乗り出しており、2026年5月には月面でのギガビット級レーザー通信構想まで打ち出しています。

◆ NASA(航空宇宙局):深宇宙からのレーザー通信に成功

NASAは小惑星探査機プシケに搭載した深宇宙光通信実験(DSOC)で、地球から数億キロメートル離れた距離からレーザーでデータを送り届けることに成功しました。最大267Mbpsで超高精細映像を地球へストリーミングするなど、合計13.6テラビットものデータを伝送。この実験は2025年9月に予定の任務を完了しています。将来の有人火星探査に向けた通信基盤づくりの一歩です。

◆ 米宇宙軍/SDA:防衛網も光でつなぐ時代へ

米宇宙開発局(SDA)は、ミサイル探知・追跡用の衛星群と、通信中継用の衛星群を、標準化した光通信端末でつなぐ構想を進めています。安全保障の世界でも、衛星間を光で結ぶことが前提になりつつあるということです。地上の光ファイバー網が世界を変えたのと同じことが、いま頭の上の宇宙空間で起きようとしています。

IT小僧の本音コラム

勝負どころは「主導権」をどこまで握れるか

正直に言えば、「いい話だが、勝負はこれから」と見ています。技術的に筋がいいのは間違いありません。NTTの地上系デジタルコヒーレント技術は世界トップクラスですし、エムブリオニクスは欧州宇宙機関に鍛えられた本物の宇宙光通信屋です。掛け算の素材としては申し分ない。

ただ、現実を見れば、スターリンクはすでに数千の光端末を軌道上で回しています。「実証から商用」のフェーズで先行する米国勢に対し、NTT連合は「これからモジュールを開発する」段階。技術の優劣以前に、まず実装と量産のスピードで追いつけるかが問われます。SIerの現場で20年以上見てきて言えるのは、立派な構想より「いつ・いくつ・現場に入るか」がすべてだ、ということです。

それでも前向きに評価したいのは、NTTが他社のプラットフォームに「部品として乗せてもらう」のではなく、自社のコア技術(デジタルコヒーレント)をモジュールの中核に据えた点です。ここを握れれば、宇宙インフラの土管化競争で価格に叩かれる下請けではなく、技術の主導権を持つ側に回れる。MoU止まりで終わらせず、ここからどれだけ早く「飛ぶモノ」に仕立てられるか。NTT C89の本気度は、その一点で測れると見ています。

まとめ

今回のポイントを、最後に整理しておきます。

・宇宙光通信は、衛星間や衛星と地上をレーザー光で結ぶ大容量通信技術
・NTTは2026年6月、アイルランドのエムブリオニクスと宇宙光通信で覚書を締結
・NTTのデジタルコヒーレント技術を載せたモジュールで従来比10倍以上の高速化を狙う
・「IOWN(アイオン)」の技術を宇宙へ広げ、宇宙ビジネス「NTT C89」を拡大
・米国ではSpaceXやNASAがすでに実用段階に到達、ネットはすでに宇宙へ向かっている

地上のインフラで世界を支えてきたNTTが、その武器を宇宙に持ち込む――構図としては実に正攻法です。あとは構想を「飛ぶモノ」に変えるスピードだけ。先行する米国勢を相手に、日本連合がどこまで主導権を握れるか。IT小僧は、この続報を楽しみに追いかけていきます。

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