パソコン用OSの代名詞ともいえる「ウィンドウズ(Windows)」からの決別を選ぶ国が、また一つ増えた。ブルームバーグの報道によると、中国の国家安全部は一部の政府機関に対し、政府専用に開発された「ウィンドウズ10中国政府版(Windows 10 China Government Edition)」の使用を取りやめ、中国製の「Linux(リナックス)」ディストリビューションへ移行するよう指示したという。世界各国で広がる「脱ウィンドウズ」の波が、とうとう中国にも及んだ格好だ。今回は、中国がなぜこのタイミングで脱ウィンドウズに動くのか、その背景をわかりやすく解説していこう。あわせて、隣国である日本の状況にも目を向けてみたい。
理由その一 前倒しされた「サポート切れ」問題
今回撤去の対象となっている「ウィンドウズ10中国政府版」は、一般消費者向けのウィンドウズ10とは別物だ。マイクロソフトと中国国有企業・中国電子科技集団(CETC)が共同で設立した合弁会社「シーアンドエム・インフォメーション・テクノロジーズ(略称CMIT)」が開発した、中国政府専用のカスタム版である。国内暗号方式への対応や独自の更新管理機能を備え、不要な機能を取り除いているのが特徴だ。
予定より一年以上早い前倒し終了という異例の対応であり、単なる自然な入れ替えというより、政治的な判断が働いていることをうかがわせる。
理由その二 米国企業を信頼しなくなっている事情
中国当局はセキュリティ上の懸念を理由に挙げているとされるが、具体的な脆弱性や侵害事例は公表されていない。マイクロソフト側も「この製品に関わるセキュリティインシデントは認識していない。同ソフトウェアは引き続き通常の更新を受けている」とブルームバーグに答えており、双方の説明には食い違いが見られる。
デジタルソブリン(主権)とは何か
こうした動きを理解するキーワードが「デジタルソブリン(デジタル主権)」だ。これは、自国のデータやシステム、通信インフラといったデジタル基盤を、特定の外国企業や外国政府に過度に依存せず、自国で管理・統制できる状態を指す考え方である。データがどこに保存され、誰がアクセスできるのか。障害や有事の際に外部の都合で機能が止められないか。こうしたリスクを減らすことが目的だ。
実はこの流れは中国だけの話ではない。フランスは数百万台規模の行政端末をオープンソース環境へ切り替える計画を進めており、ドイツの一部州やデンマークの自治体でも、独自基盤への移行や特定業者への依存低減が進む。背景には共通して、特定の提供元に過度に依存する状態を避けたいという動機がある。
| 国・地域 | 対象 | 移行の方向性 | 主な理由 |
| 中国 | 政府機関の一部 | 国産Linuxへ移行(候補の一つが麒麟系OS) | 安全保障・デジタル主権 |
| フランス | 数百万台規模の行政端末 | オープンソースOSへ移行 | ベンダー依存の低減 |
| ドイツ(一部州) | 州政府の業務システム | 独自基盤へ移行 | ベンダーロックイン回避 |
| 日本 | 行政のクラウド基盤 | 海外クラウドへの依存が継続 | 移行より安定運用を優先 |
日本ではどうなのか
では日本はどうか。実は日本の場合、行政システムの基盤となる「ガバメントクラウド」は、むしろ海外の大手クラウド事業者への依存が続いているのが実情だ。国産の代替OSやクラウド基盤の選択肢は中国のようには育っておらず、短期間で依存から抜け出せる状況にはない。
まとめ 脱ウィンドウズ 中国もお前もか
欧州に続き、中国までもがウィンドウズからの決別に動き出した。今回の一件は単なるOSの入れ替え問題ではなく、国家がどこまで自国でデジタル基盤を制御できるかという「デジタルソブリン」の話である。日本にとっても対岸の火事として済ませず、自国のIT環境をどう設計していくか、あらためて考えるきっかけにしたい。