かつて家庭用ロボット掃除機市場を切り拓き、「ルンバ」という言葉を世界的なブランドにした iRobot（アイロボット）社 が、2025年12月に米国で連邦破産法11条（Chapter 11）を申請しました。
これは単なる倒産ではなく、企業の再建を目指した法的措置ですが、株式は上場廃止が見込まれるなど、ブランドの運命が大きく揺らいでいます。
本記事では、なぜルンバの王者がここまで追い込まれたのか、その背景と今後の見通しをわかりやすく整理します。Stock Titan
目次
ルンバ製造のiRobotが倒産申請に至った背景
企業経営の苦境と連邦破産法11条の申請
2025年12月、iRobot は 主要債権者・契約製造メーカーである Picea との合意のもと、裁判所監督の「プレパック型Chapter 11」手続きを開始しました。この手続きは負債の再編を図りながら事業を継続するためのものであり、同社は 2026年2月までの完了を見込んでいます。成功すればバランスシートの負担軽減や新たな投資余力が生まれる可能性がありますが、現在の普通株式はすべて消却され、株主は回収を受けられない見込みです。Stock Titan
売上の低迷と収益性の悪化
近年の財務報告では、iRobot の売上が前年同期比で大幅に減少していることが示されています。最新の四半期決算でも、売上高が期待を下回り、キャッシュポジションの悪化が続いているとCEOが説明しました。製品の新モデル投入による売上増が見られたものの、市場全体の需要低迷や資金繰りの制約が重荷となりました。PR Newswire
Amazon買収の破談と資金繰りの悪化
購入先として期待されていた Amazon との買収交渉（約14〜17億ドル規模）は成立せず、この破談が経営悪化に拍車をかけたとされています。ウォール・ストリート・ジャーナルやアナリストによれば、iRobot はこの買収成立を前提に財務戦略を組んでいた部分があり、その見込みが崩れたことで負債比率が増大し、人員削減やコストカットが相次ぎました。プレジデントオンライン
グローバル競争の激化と技術革新の遅れ
中国勢の台頭
iRobot が直面した最大の競争環境の変化は、中国メーカー、たとえば Ecovacs や Roborock などのロボット掃除機メーカーの急成長と価格競争です。こうした企業は低価格で高機能モデルを投入し、グローバル市場シェアを急速に拡大しました。これにより、ルンバの高価格帯戦略が相対的に魅力を失い、販売力が低下しました。プレジデントオンライン
技術革新が追いつかず、製品ライフサイクルが縮小
AI などを搭載した最新モデルの開発が進む中、iRobot は製品刷新を試みたものの、市場のスピードに追いつくことができず、消費者の選択肢が多様化する趨勢に対応しきれなかったとの指摘もあります。また高価なハードウェア依存型ビジネスモデルは、ソフトウェアやクラウド連携で差別化を図る競合企業に遅れを取りました。プレジデントオンライン
かつての栄光と衰退の過程
iRobot は1990年に MIT の研究者によって設立され、家庭用ロボット掃除機の草分け的存在となりました。2002年に初代「ルンバ」を発売して以来、革新を重ね、市場を牽引してきました。しかし、2020年代に入ると売上はピークを過ぎ、商品需要が頭打ちになる中で急速な利益悪化が進行していました。3 ヶ月前の報告によれば、iRobot は「今後 12 ヶ月以内に継続企業として存続できるか疑義がある」と自ら開示していました。Ledge.ai
倒産後の「ルンバ」はどうなるか？
事業再建とブランド存続の可能性
Chapter 11 の目的は単純に清算することではありません。iRobot は負債の再編と資本構造の整理を行い、新たな所有体制のもとで ロボット製品の開発とサポートを継続する計画です。これは Picea 社による完全買収後も、製造と販売継続を可能にする戦略的な動きです。Stock Titan
ユーザーへの影響
法的整理中は製品サポートやアフターサービスが維持される見込みですが、株主価値は消失する点は注意が必要です。現行の普通株式は消却され、投資家は回収を受けられない可能性が高いとされています。Stock Titan
ロボット掃除機市場そのものの未来
iRobot の苦境は、家庭用ロボット市場が成熟段階に入り、価格競争と技術革新の両面で競争が激化していることを示しています。今後は低価格・高機能モデルが主流になり、クラウド連携や AI での差別化が競争の中心になる可能性が高いと言われています。
結論：王者の挫折から学ぶ教訓
「ルンバ」ブランドを世界に広めた iRobot の倒産申請は、単なる企業の失敗ではなく、テクノロジー市場の変化を象徴しています。 高度な消費者向け技術も、グローバル競争、資金繰り、買収交渉の不成立、そして市場のニーズ変化の波に押されると、その地位を維持することが難しくなります。
消費者と投資家にとって、今回の事例は 競争激化するテック市場でのスピードと適応の重要性を教えるものです。ルンバという象徴的存在は、新たな所有のもとでさらなる進化を目指すかもしれませんが、その道のりはこれまで以上に険しくなるでしょう。