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IT小僧の時事放談

YouTube がトランプ氏アカウント凍結訴訟で24.5百万ドル和解――なぜ凍結され、なぜ決着したのか

2025年9月、YouTube はドナルド・トランプ前大統領との長年にわたるアカウント凍結訴訟で 2,450 万ドル(日本円でおよそ数十億円) の和解に合意しました。

凍結された理由、訴訟提起の背景、そしてなぜ最終的に訴訟を収束させる選択をしたのか。報道をたどりながら、米国の言論空間・プラットフォーム規制・表現の自由の視点も交えて整理してみましょう。

本文:なぜ凍結されたのか — 背景と論点

事件の発端:2021年1月6日、議会襲撃事件とSNS規制

2021年1月6日に米議会議事堂が襲撃された事件後、複数のソーシャルプラットフォーム(YouTube を含む)は、トランプ側支持者らによる暴力扇動や危険な情報の拡散を抑制するために、トランプ氏関連アカウントを一時的に停止・制限する措置をとりました。YouTube も例外ではなく、彼の発言や動画投稿を制限する判断をしました。AP News+3The Guardian+3The Washington Post+3

YouTube 側は、当時「暴力を扇動する可能性のあるコンテンツ」や「公共の安全リスク」としての懸念を理由に挙げており、具体的には「アップロードの停止」や「投稿不可措置」など、アカウント全停止よりは限定的な制裁措置が中心だったと報じられています。ABC News+2The Guardian+2

さらに、YouTube の公式声明や報道によれば、トランプ氏のチャネル凍結は「継続的な暴力リスクに鑑みて判断した」ものとされており、明確なガイドライン違反の指摘を逐一公表していたわけではありませんでした。The Washington Post+2The Guardian+2

訴訟提起:表現の自由と “サイレンシング(黙殺)” の主張

トランプ側は 2021年7月、YouTube(親会社 Google/Alphabet および関係者)を相手取り、「プラットフォーム側が保守派・トランプ支持派の表現を意図的に抑えた」「言論の自由を侵害した」とする訴訟を起こしました。The Guardian+6Reuters+6AP News+6

この訴訟は、他の訴訟(Meta/Facebook、X/Twitter など)と並行して提起されており、大手テック企業による「偏向的なコンテンツモデレーション」への異議申し立てという構図が浮かび上がります。ブルームバーグ+4ポリティコ+4AP News+4

ただし、法理的にはハードな壁が存在しました。米国のソーシャルメディア企業は 私的企業 であり、第一修正(言論の自由)は政府機関の検閲を制限するものであって、プラットフォーム側の行為を自動的に違憲と判断する根拠にはなりません。また、プラットフォームには利用規約違反・安全対策の裁量も認められる部分があります。したがって、訴訟を勝利で導くには、非常に強い証拠・論理が必要とされました。

加えて、トランプ氏のアカウントは 2023年に YouTube 上で復活(再開)していたため、訴訟を続ける法的な実効性・利益を巡る争点も残っていました。AP News+2The Guardian+2

対抗・防御側(YouTube/Google)の論点

YouTube 側には、訴訟対応および裁判リスクを考慮した複数の策略と論点がありました。

  • 無過失を主張:和解文書によれば、YouTube は「いかなる違法行為を認めるものではない」と明記しており、訴訟上の責任認定を避ける構えを取っています。AP News+4Reuters+4AP News+4

  • 政策変更の回避:和解合意では、YouTube の 製品やポリシーは変更しない という条項が含まれています。すなわち、和解はあくまで訴訟の収束であり、サービス運営方針の大転換を意味するものではないとされています。The Washington Post+3Reuters+3AP News+3

  • 訴訟コスト・リスク回避:訴訟が長期化すればコストも上がる。加えて、判決リスクを回避したいという動機もあるでしょう。特に政治色の強い裁判で、世論や判事の判断が流動的になる可能性もあります。

  • 先例的な影響回避:敗訴すれば、他のプラットフォーム運営にも波及する先例判例を生むリスクがあります。YouTube としては、判例を規制的制約に縛られたくない利益もあるでしょう。


和解に至った理由:なぜ訴訟を終結させたのか

和解金と配分

最終合意によれば、YouTube/Alphabet は 24.5百万ドル(2,450 万ドル) を支払うことで和解することとなりました。ブルームバーグ+7Reuters+7AP News+7

うち 2,200 万ドル(22 million) は、トランプ氏が関連するプロジェクトである「Trust for the National Mall」を通じて、ホワイトハウスの新しい舞踏会場(State Ballroom)建設費用に拠出されることが報じられています。TheWrap+5Reuters+5AP News+5

残余の 2.5 百万ドル は、トランプ氏訴訟に共に加わった原告(American Conservative Union、著者 Naomi Wolf など)へ分配されることになっています。The Guardian+3AP News+3ポリティコ+3

この配分方式は、単純にトランプ氏本人に支払うのではなく、“象徴的用途” と既存原告への支援を組み合わせた形となっています。


1月に米国議会議事堂ロタンダで行われた大統領就任式に到着したGoogleのサンダー・ピチャイ

責任認定回避、政策変更なしの合意

和解合意には、YouTube(および親会社側)が「責任を認めない」条項が含まれており、プラットフォーム運営方針自体を変える義務も発生しないようになっています。The Washington Post+3Reuters+3AP News+3

これは YouTube にとっての「妥協点」であり、訴訟的リスクと世論リスクを抑えつつ、運用の自由度を残しながら終結を図る道筋と言えます。

和解のタイミングと外部圧力

この和解は、裁判期日に先立つ形で合意が発表されています。つまり、訴訟が山場を迎える前段階での手仕舞いという戦略的な判断と見られています。The Washington Post+2ブルームバーグ+2

また、他の大手プラットフォーム(Meta/Facebook、X/Twitter)も同様の訴訟で和解済みであり、その先例が YouTube 側にある程度の“先例圧力”を与えていた可能性があります。ブルームバーグ+4AP News+4ポリティコ+4

さらに、米国では言論の自由や検閲論争が世論・司法で敏感なテーマであり、訴訟が広く注目を集める可能性がある中で、メディアリスクを最小化したい意図も働いたと推察されます。


意義と今後への示唆

この和解は、プラットフォーム運営と政治表現の交差点における一つの転換点と見られます。いくつかの観点で注目すべき点があります。

  1. 先例となる判断かどうか
     和解による処理であり、判決としての法的画期性は残しません。しかし、訴訟リスクが今後のプラットフォーム運営の抑止力になりうる点は重要です。

  2. プラットフォームのモデレーション自主裁量の余地
     YouTube はポリシー変更義務を負わない合意を取ったため、プラットフォームがコンテンツ制御を行う裁量範囲の判断基準が、実質的には現状維持という位置づけになります。

  3. 表現の自由 vs プラットフォームの安全管理の緊張
     トランプ氏の事例は極端な政治表現を含むため、従来型の一般ユーザー向けモデレーションとは異なる文脈があります。これをどう区別するかが、技術・法律・倫理の交点となります。

  4. 今後の訴訟と企業対応戦略
     Meta/X に続き、YouTube も和解に踏み切ったことで、他の訴訟(コンテンツモデレーション関連、政治表現関連)でも、他企業が和解を選好する流れが強まる可能性があります。

  5. 信用・評判リスク管理の重要性
     大手プラットフォームが権力者との訴訟に関与する際、世論・法制度・報道対応を含めた広範なリスク管理が必須であるという教訓を残します。

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