グーグルがユーザー行動の追跡でデジタル・フィンガープリンティング(端末やブラウザの特徴量を組み合わせた指紋づくり)を実質許容し、アップルはiOS 26/Safari 26でこれを真正面から無効化に踏み込む
そんな構図が、ここ数カ月の海外報道と公的文書でくっきりした。
日本語圏では断片的に語られがちなこのテーマを、Forbes JAPANの解説を入口に、海外ソース中心に分かりやすく整理する。
目次
何が起きているのか:クッキーの次は「指紋」
この数年、ウェブの追跡はサードパーティークッキー依存から“指紋づくり”へと重心を移してきた。英国のデータ保護当局ICOは2024年末に、「Googleは2025年2月16日以降、広告ポリシー上の“フィンガープリンティング禁止”を解き、一定条件で許可する」との見立てを公表し、「同意と透明性の確保なしに運用すべきではない」と強い懸念を示した。
これはユーザーが削除・拒否しづらい追跡が広がる可能性を意味する。
ICO
さらに2025年春、Chromeの「クッキー全廃」計画が実質的に撤回され、Googleは「サードパーティークッキーは現行どおり“ユーザー選択”で維持」に舵を切った。
つまり、クッキーは残り、指紋も領域によっては容認——**“二正面作戦”**で広告エコシステムを継続する判断だ。
The Verge
海外のアドテク媒体は加えて、CTV(コネクテッドTV)などブラウザ外の領域でGoogle広告陣営が指紋的手法を認める含みを持たせたと指摘する。
ブラウザ側ではIP保護などで“反指紋”の旗を掲げつつ、別レイヤーでの識別は続く——その“すき間”を突くのが最新トレンドだ。
AdExchanger
アップルはどう動いたか:Safari 26の「高度指紋保護」
アップルはiOS 26/Safari 26でAdvanced Fingerprinting Protection(高度指紋保護)を標準(全ブラウズモード)に拡張する。
WebKit公式ブログは、既知のフィンガープリンティング・スクリプトが端末特徴を得るAPI(画面解像度、並列処理コア数、音声合成のボイス一覧、2D Canvas、Apple Pay可否シグナル等)へのアクセスを不安定化し、長寿命のスクリプト保存領域(Cookie/LocalStorage等)も抑制すると説明
リンク追跡パラメータ剥離(LTP)と組み合わさり、gclid/fbclidのようなクリックIDも広い場面で無力化される方向だ。
WebKit9to5Mac
アップルは2023年段階で「高度な追跡・指紋保護」の路線を打ち出しており、Safariの設計自体が“同じに見せる”(多くの端末を同じ構成に擬態)ことで識別困難にする思想をとる。
今年はそれを一段押し広げ、既知スクリプトの“息の根”を止めにいくフェーズに入った。
Apple+1
なぜ「いま」騒がしいのか:クッキー撤回と“静かな復活”の同時進行
要点は3つ
第一に、クッキー撤回で「指紋が主戦場」という見立てが強まったこと
第二に、Google側のポリシー転換(一定の指紋的識別を許容)が広告の現場を広く刺激したこと
第三に、Apple側の技術的防衛線がOS/ブラウザのデフォルトとして前面に出てきたことだ。
結果的に、“識別したい”業界の論理"と識別させない”OSベンダーの駆け引きが、2025年夏に一気に可視化された。
ICOThe VergeWebKit
何が「フィンガープリンティング」なのか(やさしく)
クッキーはユーザーが消せる名札だが、指紋は端末・ブラウザの癖(解像度/フォント/Canvas描画の微差/オーディオ特性/タイムゾーン/言語設定/Apple Pay対応…)を束ねた“似顔絵”で、本人が消しにくい。
Forbes JAPANの原稿も、この“サイレント追跡”の本質を押さえている。
Safari 26の新防御は、この似顔絵の材料そのものに“ノイズ”を入れたり、取得を塞いだりして「同じ顔に見えない」ようにする発想だ。
Forbes JAPANWebKit
実務インパクト:広告・計測はどうなる?
クリックIDの剥離や既知スクリプト封じが進むと、ウェブ計測の粒度低下は避けられない。
海外のマーケ/計測各社は、
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AdAttributionKit(ポストバック型)等のプライバシー前提APIへの移行
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ファーストパーティデータの整備(ログイン、同意管理、同意に基づく計測)
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モデル化(MMM/合成CV/LTV推定)の併用
を“新常識”として挙げる。「フィンガープリントが絶滅へ」との強い言い回しも見られるが、現実にはCTVやアプリ外領域で識別の揺り戻しが起きるため、法令(GDPR/UK GDPR)準拠の同意・透明性が成否を分ける。BranchMobile Dev Memo by Eric Seufert
生活者の対策:いまできる“現実的な防御”
iPhoneユーザーは、iOS 26配信後にSafariの「高度指紋保護」が既定で有効になる点をまず押さえたい。プライベートリレーやIP非公開、メールのリンク追跡保護など、OS標準の“重ねがけ”で、同意なしの横断追跡はさらに困難になる。とはいえ万能ではない。アプリ内WebViewやCTVなど、ブラウザ外では別の識別手法が使われ得るため、“同意管理”で可視化するサービス(アカウント中心の利用、広告設定の見直し)を自分ごと化するのが近道だ。AppleAdExchanger
まとめ:2025年は「OS×規制×広告」の三つ巴
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AppleはSafari 26で既知の指紋スクリプトを仕組みで無力化し、デフォルトで指紋づくりを阻む
WebKit -
規制当局は**“同意と透明性なき指紋”に待ったをかけ、事業者に適法運用**を迫る。
ICO
日本の読者が覚えておくべきはシンプルだ。
「追跡の技術は変わるが、同意と説明責任は逃げられない」
そのうえで、OS標準の防御を“オンにしておけばいい”時代に、ようやく入った——これが海外のコンセンサスである。
9to5MacWebKit
参考(主要ソース)
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Forbes JAPAN「グーグル、iPhoneを『密かに追跡』──アップルはiOS 26で本格的に阻止」:日本語での全体像。Forbes JAPAN
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The Verge:Chromeのクッキー全廃を撤回、「ユーザー選択を維持」に転換。The Verge
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UK ICO:Googleの指紋方針への見解(2025/2/16以降の扱いに警鐘)。ICO
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WebKit 公式(WWDC25 / Safari 26 beta):既知の指紋スクリプト遮断、長寿命ストレージ抑制。WebKit
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9to5Mac:iOS 26で高度指紋保護がデフォルトに。9to5Mac
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AdExchanger:CTV領域における指紋利用の波。AdExchanger