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IT小僧の部屋

60年の業務ロジックはAIで書き換えられるか?COBOL問題が招く社会インフラ崩壊リスク

AIを使えば数カ月でCOBOLをJavaに書き換えられる」──そんな楽観論が世界中で試され、そして世界中で失敗している。アメリカではイーロン・マスク率いるDOGE(政府効率化部門)が6,000万行ものCOBOLコードを"数カ月"で書き換えようとして専門家から猛批判を受け、日本では京都市が117億円を投じたシステム刷新を事実上の失敗に終わらせた。COBOLが動かすシステムは社会インフラの根幹であり、止まれば数千万人の生活が直撃する。そして日本ではCOBOL技術者の平均年齢が57.8歳に達し、後継者育成を事実上放棄した状態が続いている。本稿ではこの「COBOL問題」の本質を、国内外の失敗事例を通じて問い直す。

■ 目次

  1. COBOLとは何か──60年現役の「社会インフラ言語」
  2. AIはなぜCOBOL移行で失敗するのか
  3. 【DOGE】イーロン・マスクの"数カ月"宣言と専門家の警告
  4. 【海外失敗事例】TSBバンク・コモンウェルス銀行
  5. 【日本の失敗事例①】みずほ銀行──4,000億円・19年の苦闘
  6. 【日本の失敗事例②】京都市──117億円を失った顛末
  7. 日本固有の病「JaBOL」問題
  8. 東南アジアはCOBOLを「稼げるスキル」として育成中
  9. 日本のCOBOL技術者消滅危機──平均年齢57.8歳の現実
  10. IT小僧の本音コラム:この問題の本質とこれから

① COBOLとは何か──60年現役の「社会インフラ言語」

COBOL(コボル:Common Business Oriented Language/共通業務指向言語)は1959年に開発されたプログラミング言語だ。誕生から60年以上が経過した今も、銀行の勘定系システム・保険契約管理・政府の年金/税システム・大手製造業の基幹業務など、社会の根幹を支え続けている。

世界のCOBOL現状(主要データ)

指標 数値・内容
世界の銀行システムにおけるCOBOL稼働率 43%
ATM取引のCOBOL処理割合 95%
クレジットカード取引のCOBOL関与率 95%
世界のCOBOLコード総行数(推定) 2,000億行以上
日本でのプログラミング言語シェア(開発言語別) Javaに次ぐ国内2位(13.3%)
レガシーシステムを現在も使用中の日本企業割合 56.6%(IPA 2024年度調査)

COBOLは「古い言語」というイメージが先行しがちだが、実態はATMを動かし、年金を計算し、税金を処理している「社会インフラそのもの」だ。止まれば数千万人の生活に直撃する。だからこそ、移行が非常に難しい。

② AIはなぜCOBOL移行で失敗するのか

生成AI(ジェネレーティブAI)がコード変換に使われるようになり、「AIに任せれば移行できる」という期待が高まった。しかし専門家たちはその楽観論に警鐘を鳴らす。

▶ 実際に起きたAI失敗の典型例

ある変数「TRN-LIMIT(トランザクション上限)」が、変換対象ファイルではなく実行チェーン数千行上流のコピーブック(COPYBOOK)内で定義されており、さらにREDEFINES(リデファインズ)という構文により、同じメモリアドレスが実行時のフラグ次第で異なるデータ型として解釈される構造になっていた。AIはこれを単純な数値フィールドと認識。実際にはパックド十進数として振る舞う変数をハルシネーション(幻覚生成)で標準定義として処理し、Javaアプリケーションがデータベースに壊れたバイナリデータを書き込んだ。

「AIは愚かだったから失敗したのではなく、コンテキスト(文脈)が見えていなかったから失敗した」──これが本質だ。

AIがCOBOL移行で失敗する主な技術的理由

問題 内容
コンテキスト(文脈)不足 AIはファイル単位で変換するが、COBOLはコピーブック・JCL(ジョブ制御言語)・実行時フラグなどプログラム横断の依存関係が多い
REDEFINES(リデファインズ)問題 同一メモリ領域を複数のデータ型で使いまわすCOBOL特有の構造をAIが誤認識する
パックド十進数(COMP-3) COBOLの固定小数点演算をJavaのfloat/doubleに変換すると丸め誤差が発生。金融計算では致命的
ブラックボックス化 長年の改修でシステム全体像を把握できる人材がいなくなり、AIに投入するコード自体の品質が低い
テスト環境の不備 本番と同等のテスト環境が整備されておらず、移行後に重大バグが顕在化する
「AI任せ」の過信 AIは移行を支援するツールに過ぎず、完全自動化は不可能。人によるレビュー・テスト・補完が必須

③ 【DOGE】イーロン・マスクの"数カ月"宣言と専門家の警告

2025年3月、WIREDの報道で明らかになったのは、イーロン・マスク氏率いるDOGE(ドージ:Department of Government Efficiency/政府効率化部門)が、アメリカ社会保障局(SSA:Social Security Administration)のシステム全体を「数カ月で」COBOLからJava等に書き換える計画を進めているという驚愕の事実だった。

SSAシステムの規模

項目 規模
COBOLコード総行数 6,000万行以上
給付対象人数 6,500万人以上(米国民)
年間給付総額 約1.3兆ドル(2023年度)
通常の移行期間(専門家見積) 10年以上
DOGEが宣言した移行期間 「数カ月」

この計画に対し、SSAの元上級技術者は「SSAのシステムは針金とダクトテープで繋ぎ合わされているような状態であり、不用意に一部を取り除くと全体が崩壊する可能性がある」と警告した。さらにDOGEが介入を開始した直後から、SSAのウェブサイトで頻繁なダウンが発生し始めたことも報告されている。

マスク氏は「150歳の受給者がいる」と主張して不正の証拠だと騒いだが、これはCOBOLの日付フィールドのデータ形式を誤認識した「技術的な誤解」に過ぎなかった。社会保障システムの最も基本的な仕様を理解しないまま、6,000万行の書き換えを宣言した──この事実だけで、計画の杜撰さが伝わる。

④ 【海外失敗事例】TSBバンク・コモンウェルス銀行

■ TSBバンク(英国)──史上最悪級の移行失敗

2018年4月、英国TSBバンクはCOBOLベースのシステムをスペインの親会社の新プラットフォームに移行しようとして壊滅的な障害を起こした。

被害 内容
影響顧客数 520万人
業務停止期間 数日間(完全復旧まで約8カ月)
移行コスト 3億3,000万ポンド
詐欺被害(障害中) 4,900万ポンド
顧客苦情件数 22万5,000件以上
規制当局からの制裁金 4,865万ポンド
CEO 辞任

■ コモンウェルス銀行(オーストラリア)──10億ドル超・5年の迷走

2012年からアクセンチュアとSAPの協力のもとコアバンキングプラットフォームの刷新に着手。最終的に5年を要し、費用は10億オーストラリアドル(約750億円)超に膨らんだ。スケジュールの大幅遅延と予算超過を繰り返した典型的な移行失敗例として記録されている。

⑤ 【日本の失敗事例①】みずほ銀行──4,000億円・19年の苦闘

「ITのサグラダファミリア」と揶揄されたみずほ銀行の新勘定系システム「MINORI(ミノリ)」開発プロジェクトは、日本の企業システム史上最大の失敗事例として教訓を残した。

項目 内容
統合行 旧第一勧業銀行・旧富士銀行・旧日本興業銀行の3行
プロジェクト期間 19年(2000〜2019年)
総投資額 4,000億円台半ば
開発規模 35万人月(東京スカイツリー7本分相当)
参加SIer(システムインテグレーター)数 1,000社以上
2021〜22年に発生した障害件数 11回

最大の皮肉は、4,000億円をかけた「新システム」が完成した後もCOBOLが残存していた点だ。「IT業界では、なぜみずほはわざわざ高齢のエンジニアを雇ってまでCOBOLを使い続けるのかが疑問視されていた」と業界関係者は証言している。つまり、4,000億円かけた移行プロジェクトは「新築」ではなく「建て増し改築」に過ぎなかった。

根本原因として専門家が指摘するのは「経営トップのITシステムに対する無理解」と「無理のあるスケジュールの強行」だ。障害が11回繰り返された背景には、完成直後から専門ベンダーが離れ、障害対応力が急低下したという構造的問題があった。

⑥ 【日本の失敗事例②】京都市──117億円を失った顛末

国内自治体のCOBOL移行失敗事例として最も有名なのが京都市だ。全経緯を時系列で整理する。

時期 出来事
2014年 国民健康保険・介護保険・徴税・住民基本台帳など18業務のNEC製COBOL基幹システム刷新開始(当初予算81億円)
2016年 バッチ処理のマイグレーション(移行)でシステムズ社と見解相違。稼働遅延が発覚
2017年10月 システムズ社との契約解除。双方が互いに訴訟提起(泥沼化)
2018年 仕切り直し。キヤノンITソリューションズが落札。2020年1月の本稼働を目指す。総額は100億円規模に
2019年 再度の延期。稼働時期「未定」に
2020年9月 門川大作市長が正式に「一部中断」を発表。最大99億9,000万円の損失を公表
2024年2月 東京地裁の一審判決:システムズ社に約5億円の賠償命令。京都市には協力義務違反として約1億円の支払い命令。双方が控訴し係争続く

この失敗の本質は「30年前のシステムの仕様を誰も知らなかった」という点に尽きる。現行システムの出力結果と新システムが一致しなければ検収できないが、そもそも現行システムが正しい計算をしているかどうかも誰も確認できない──という袋小路に陥ったのだ。

さらに追い討ちをかけたのが「国の自治体システム標準化」方針。どのみち作り直しが必要になると分かり、117億円を投じたプロジェクトはその意義自体が失われた。

⑦ 日本固有の病「JaBOL(ジャボル)」問題

日本ではCOBOLからJavaへの移行において、特有の失敗パターンが生まれ「JaBOL(ジャボル)」という造語まで生まれた。

▶ JaBOLとは何か

COBOLをツールで機械的にJavaに変換した結果、オブジェクト指向(Java本来の設計思想)が全く活かされず、手続き型のCOBOLの書き方がそのままJavaで再現された状態のコードのこと。「COBOL風のJava」なので「JaBOL(Java+COBOL)」と呼ばれる。

業界からは「JaBOLは百害あって一利なし」との声も上がる。変換後のプログラムを改修するにはCOBOLとJavaの両方の知識を持つエンジニアが必要になる。さらにCOBOLをそのままJavaに変換すると繰り返し処理でSQLを大量発行するなど、性能劣化を引き起こすケースも多い。

「脱COBOL」を達成したつもりが、COBOLとJavaを両方分かる人間が必要という最悪の二重苦が誕生する。これは「移行」ではなく技術的負債の先送りに過ぎない。

⑧ 東南アジアはCOBOLを「稼げるスキル」として育成中

日本がCOBOLを「過去の遺物」として後継者育成を放棄する一方、東南アジアでは真逆の動きが起きている。

■ フィリピンの戦略

欧米の大手銀行や金融機関におけるCOBOL開発のアウトソーシング先として、フィリピンはトップクラスに位置づけられている。マニラにあるアクセンチュアの拠点(ATCP)だけで1,000人を超えるCOBOLエキスパートが勤務している。英語力と技術力を武器に、高付加価値なビジネスとして成立させている。

■ ベトナムの取り組み

ベトナムでは大学と企業が連携し、学生時代からCOBOL教育を正規カリキュラムに組み込む仕組みが始まっている。3年生からCOBOLの基礎教育を開始し、追加100時間のトレーニングを経て、卒業時点で日本向けCOBOL保守の即戦力として送り込む体制が整いつつある。

日本 vs 東南アジア:COBOL人材政策の比較

項目 日本 フィリピン・ベトナム
国家試験・教育 2020年に廃止 大学カリキュラムに組み込み
技術者の年齢層 平均57.8歳 20〜30代を積極育成中
40歳未満の割合 15%未満 育成中で増加傾向
位置づけ 「古い言語」として敬遠 欧米・日本向け高付加価値ビジネス

皮肉な現実として「日本が捨てたCOBOL人材需要を、東南アジアがビジネスとして取り込んでいる」という逆転現象が進行中だ。

⑨ 日本のCOBOL技術者消滅危機──平均年齢57.8歳の現実

日本のCOBOL問題は「移行が難しい」という技術的問題だけでなく、「移行すら担える人間がいなくなる」という人材的危機でもある。

⚠ 日本のCOBOL技術者 現状データ

指標 数値
COBOL技術者の平均年齢 57.8歳
40歳未満の割合 15%未満
学びたい言語ランキング(2025年6月) 20位
国家試験(基本情報技術者試験)からの廃止年 2020年春(2019年秋が最後)
現在もレガシーシステムを使用中の企業割合 56.6%

今後起こりえる3つのシナリオ

① 保守すらできなくなる

現在の技術者が引退する2030年前後、COBOLシステムの緊急障害が起きても国内に対応できる人間がいなくなる可能性がある。

② 海外依存という新リスク

フィリピン・ベトナムの技術者に高額で依頼するしかなくなり、国内の業務ロジックや機密データが海外に流出するリスクも生じる。

③ 移行も保守もできない二重苦

AIでの移行は失敗続き。COBOLを保守できる人もいない。「動いているからいじるな」と放置した結果、誰も触れない「呪われたシステム」だけが残る。

⑩ IT小僧の本音コラム

IT小僧の本音コラム

「COBOLを知らない者が、COBOLを語るなかれ」

自分は、40年以上前 大型汎用機のCOBOLからこの業界に入った。10万行のオンラインシステムなどを構築してきた経験からすると この問題の根深さが実感できる。

DOGEのマスク氏が「150歳の受給者がいる」と叫んだのは、COBOLの日付フィールドの仕様を知らなかったから。京都市が100億円を失ったのは、誰も30年前の仕様書を読めなかったから。みずほ銀行が4,000億円かけてもCOBOLを残したのは、結局それだけ業務ロジックが複雑だったから。

「AIを使えば解決する」という楽観論は、問題の本質を見誤っている。AIはコードを変換できても、30年前の設計者がなぜそう書いたかは読めない。業務ロジックの意図はコードに書かれていない。それを知っているのは引退間近の技術者たちだけだ。

国家試験からCOBOLを外したIPAの決断は時代の流れとして理解できる。だが問題は「COBOLシステムが現実に動き続けているのに、それを扱える人を育てることをやめた」という矛盾だ。東南アジアの若者が「COBOL=稼げるスキル」として積極的に学んでいる今、日本だけが後継者育成を放棄した構造になっている。

「2025年の崖」という言葉は業界に広まった。しかし本当の崖は2030年代にある。今動いているCOBOLシステムが次に誰かの手でメンテナンスされるとき、その「誰か」がいなくなる日──そのリスクを私たちは直視しなければならない。

IT小僧の先輩方で神様のようなプログラマーが実在した。
彼らのコードは、当時の制限された環境を巧みに使い、究極まで効率化を追求したプログラムだった。
神様達が書いたコードをAIが理解する日が来るのであろうか?

自分がこの世から去るまで残り少なくなっているけど COBOL問題が解決するかどうか? 遠くから眺めています。

📌 まとめ

  • COBOLは今も世界の金融・行政インフラの根幹を動かしており、「古い」だけで無視できる問題ではない
  • AIによるCOBOL→Java移行は技術的制約(コンテキスト不足・REDEFINES問題・パックド十進数等)により完全自動化は不可能
  • DOGEの「数カ月」宣言、TSBバンクの大規模障害、京都市の117億円損失、みずほ銀行の19年苦闘──失敗事例は枚挙にいとまがない
  • JaBOL問題に象徴されるように、機械的な「直訳変換」は解決ではなく技術的負債の先送りに過ぎない
  • 日本のCOBOL技術者は平均57.8歳・40歳未満15%未満。国家試験廃止により後継者育成は事実上ゼロに
  • 東南アジアはCOBOLを「稼げるスキル」として戦略的に育成中。日本が捨てた需要を取り込んでいる
  • 移行の成否を決めるのはAIや新技術ではなく「業務ロジックを言語化できる人間」と「経営判断できるリーダー」

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