かつて企業システムの世界で「データベースといえばこれ一択」と言われた絶対王者がいる。Oracle(オラクル)である。特に金融系のシステムでは、絶対と言って良いほどの信頼を集めてきた。ところが近年、「オラクル離れ」という言葉が業界のあちこちで聞かれるようになった。新規開発の現場では別のデータベースが選ばれ、既存システムからの移行案件も増えているという。果たしてこれは本当なのか。それとも一部の声が大きいだけなのか。最新のデータをもとに、データベースの王者の現在地を検証していく。
この記事でわかること
・データベースの王者がどんな製品で、どんな歴史を歩んできたか
・「オラクル離れ」は本当なのか、数字で見た実態
・離れが起きる原因と、王者側の反撃の一手
・移行先として選ばれているデータベースはどれか
・そして金融系だけが特別である理由
Oracleってどんなデータベース?
Oracle Databaseは、米国のオラクル社が開発するリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)である。データを表形式で管理し、SQL(エスキューエル)という言語で操作する仕組みで、企業の基幹システムを支える存在として世界中で使われてきた。
最大の特徴は、大規模かつ止められないシステムに対する圧倒的な信頼性だ。複数のサーバーでデータベースを同時稼働させるRAC(リアルアプリケーションクラスターズ)や、災害対策のためのデータ複製機能など、ミッションクリティカル(絶対に止められない業務)向けの機能が徹底的に作り込まれている。銀行の勘定系、証券の取引系、通信キャリアの課金系など、止まったらニュースになるシステムの裏側には、長年この王者が鎮座してきた。
その代わり、値段も王者級である。エンタープライズ向けのライセンス(使用許諾)費用は高額で、毎年の保守費用も上がり続ける。「性能と信頼はお金で買うもの」という思想を、良くも悪くも体現してきた製品と言える。
Oracleの歴史 簡単に
王者の歴史は、そのままリレーショナルデータベースの歴史でもある。主な出来事を年表で振り返ってみよう。
| 年 | 出来事 |
| 1977年 | ラリー・エリソン氏らが前身となる会社を米国で設立 |
| 1979年 | 世界初の商用リレーショナルデータベースとして製品を発売 |
| 1990年代 | クライアントサーバー時代の波に乗り、企業システムの標準となる |
| 2008年 | データベース専用機Exadata(エクサデータ)を発表 |
| 2010年 | サン・マイクロシステムズを買収し、MySQLとJavaを傘下に収める |
| 2018年 | 自律型データベースのAutonomous Database(オートノマスデータベース)を投入 |
| 2025年 | AI(人工知能)インフラ企業へ大転換し、株価が史上最高値を記録 |
約半世紀にわたり、データベース市場の頂点に立ち続けてきた。この「勝ち続けた歴史」こそが、企業がこの製品を選ぶ最大の理由でもあった。
Oracle離れは、本当か?
結論から言うと「半分本当で、半分は言い過ぎ」である。
まず「本当」の部分。新規開発の現場では、王者が選ばれるケースが明らかに減っている。Webサービスやクラウドネイティブ(クラウド前提の設計)なシステムでは、オープンソースのデータベースが標準になった。開発者コミュニティの調査でも、若い世代のエンジニアが最初に触れるデータベースはもはや商用製品ではない。
一方で「言い過ぎ」の部分。人気指標の世界ランキングでは、Oracleは2012年から現在まで一度も首位を譲っていない。既存の基幹システムでの利用は依然として膨大であり、置き換えには年単位のプロジェクトと莫大な費用がかかる。つまり実態は「既存客は簡単には離れられないが、新規客は最初から寄ってこない」という構図だ。離れているのは「今のユーザー」ではなく「未来のユーザー」なのである。
Oracle離れの数字的データ
データベースの人気度を測る世界的な指標に、DB-Engines(ディービーエンジンズ)ランキングがある。求人数や検索数、技術記事での言及数などをもとに毎月算出されるスコアだ。2026年3月時点の上位は次のとおり。
| 順位 | データベース | スコア | 傾向 |
| 1位 | Oracle | 1182.46 | 長期で下落基調 |
| 2位 | MySQL | 858.34 | 前年比130ポイント減 |
| 3位 | SQL Server | 711.47 | 横ばい |
| 4位 | PostgreSQL | 680.08 | 6年連続で上昇 |
| 5位 | MongoDB | 384前後 | 安定 |
首位は守っている。しかし注目すべきはスコアの中身だ。王者のスコアは10年前と比べて大きく目減りしており、勢いの差は歴然としている。特にPostgreSQL(ポストグレスキューエル)は6年連続でスコアを伸ばし続けている。
さらに決定的なのが開発者側の調査だ。世界最大級の開発者コミュニティによる2025年の調査では、プロの開発者が最も使うデータベースの座をPostgreSQLが獲得した。新規プロジェクトでの採用意向でも首位である。人気ランキングの上では王者でも、開発の最前線ではすでに主役が交代しつつある。この「指標のねじれ」こそが、オラクル離れの実像と言える。
【ファクトチェック】確認済みの情報と未確認の情報
確認済み:DB-Enginesの2026年3月スコアと順位。開発者調査(2025年)でPostgreSQLが利用率首位となった件。日本法人の2026年度第3四半期クラウド売上高が前年同期比34.8パーセント増となった件。
未確認・報道ベース:「移行で運用コストを4割削減した」といった個別事例の数値は各社の公表値や報道に基づくもので、第三者による検証はされていない。移行件数そのものの公的な統計も存在しないため、本記事では傾向を示す指標として人気ランキングと調査データを用いている。
Oracle離れの原因
なぜ王者から人が離れていくのか。原因は大きく5つある。
| 原因 | 内容 |
| ライセンス費用の重さ | 高額な初期費用に加え、保守費用が毎年上がり続ける。コスト削減圧力の強い企業にとって最大の動機 |
| ライセンス体系の複雑さ | CPUコア数や仮想化環境の扱いが難解で、監査(オーディット)で想定外の請求が発生する不安が常につきまとう |
| ベンダーロックインの回避 | 特定企業への依存(ベンダーロックイン)を経営リスクと捉える企業が増加。オープンソースなら主導権を握れる |
| クラウド時代との相性 | 主要クラウドが安価で高機能なマネージドデータベース(運用お任せ型サービス)を提供し、乗り換え先が整った |
| オープンソースの成熟 | PostgreSQLが機能面で商用製品に肉薄。AI開発に必須のベクトル検索拡張も備え、若手技術者の標準になった |
要するに「高い、複雑、縛られる」の三重苦に対して、「安い、シンプル、自由」な選択肢が実用レベルに達してしまった。技術の問題というより、経済合理性の問題なのだ。
Oracle離れについて対策をしているのか?
では王者は黙って見ているのか。答えは明確にノーである。むしろここ数年の動きは、老舗企業とは思えないほど大胆だ。
第一の対策が「マルチクラウド戦略」だ。かつては自社クラウドへの囲い込みに固執していたが、方針を180度転換。ライバルであるはずの他社クラウドの中に、自社のデータベース基盤を物理的に設置するという離れ業をやってのけた。Oracle Database@AWSは2026年2月に日本でも提供が開始され、東京と大阪のリージョンで利用できる。
Azure向けとGoogle Cloud向けの同種サービスも、すでに日本で展開済みだ。「クラウドはどこでもいい、データベースだけはうちを使ってくれ」という割り切りである。
第二が「自動化と AI シフト」だ。運用の手間という弱点を消すため、チューニングやパッチ適用を自動化した自律型データベースを推進。さらにデータベース本体にもAI機能を組み込み、大規模言語モデルを直接呼び出せる製品へと進化させている。
第三が、会社そのものの変身である。OpenAI(オープンエーアイ)などとの大型契約によりAIインフラの中核企業へと転換し、2026会計年度第1四半期の受注残高は前年同期比359パーセント増の4550億ドルに達したと発表された。株価は2025年9月に史上最高値を記録。日本法人も2026年度第3四半期のクラウド売上高が前年同期比34.8パーセント増と絶好調だ。データベース人気の陰りとは裏腹に、企業としてはむしろ絶頂期を迎えている。皮肉なものである。
Oracleからどのデータベースに?
実際に移行する場合、どこへ行くのか。移行先の定番を整理した。
| 移行先 | 特徴と向いているケース |
| PostgreSQL | 移行先の本命。複雑なSQLや並列処理に強く、機能面で最も近い。ライセンス費用ゼロが最大の魅力 |
| Amazon Aurora | クラウド完結型の有力候補。高可用性を備えた運用お任せ型で、インフラ担当者の負荷を大幅に削減できる |
| EDB Postgres | 互換性重視の商用版。既存のストアドプロシージャ資産を活かしたい大規模移行で選ばれる |
| MySQL | シンプルな参照中心のシステム向け。ただし複雑な業務処理の移行先としては力不足の場面もある |
| SQL Server | マイクロソフト製品で環境を統一している企業向け。商用同士の移行で心理的なハードルが低い |
ただし注意点がある。移行は「データを引っ越して終わり」ではない。ストアドプロシージャ(データベース内の処理プログラム)の書き換え、アプリケーションの改修、性能テスト、運用体制の再構築まで含めると、大規模システムでは年単位のプロジェクトになる。ライセンス費用の削減額と移行費用を天秤にかけ、移行しない方が安いという結論に至るケースも珍しくない。ここが「離れたくても離れられない」と言われる所以である。
金融系は、Oracleだよね
そして本題の金融系である。結論、勘定系や取引系といった金融の心臓部では、いまだに王者の牙城はほぼ崩れていない。
理由は明快だ。金融システムに求められるのは「1円のズレも、1秒の停止も許されない」という異常なまでの完全性である。数十年にわたり金融の本番環境で叩き上げられてきた実績、障害時に24時間365日対応するベンダーサポート、監査や当局検査に耐える運用ノウハウの蓄積。これらは技術仕様書には書けない資産であり、オープンソースがすぐに代替できるものではない。
ただし、変化の兆しはある。金融機関でも情報系や周辺系(顧客分析、帳票、社内事務など)では、クラウドのマネージドデータベースへの移行事例が報告され始めた。一部ではAmazon Auroraを採用し、高い可用性を維持しながら運用コストを大幅に削減したという報道もある。つまり金融系でも「外堀」は静かに埋まりつつある。本丸の勘定系が動くとすれば、次の大規模なシステム更改のタイミング、つまり5年から10年先の話になるだろう。
IT小僧の本音コラム ~元金融系エンジニアの視点~
元金融系エンジニアの視点で言わせてもらうと、金融の現場で王者が選ばれ続ける本当の理由は、性能でもなければ機能でもない。「責任の所在」である。深夜のバッチ処理が止まった瞬間、翌朝の営業開始までに復旧できなければ大事故になる。その修羅場で「ベンダーのサポートに電話できる」「過去の類似障害の知見がある」という安心感は、ライセンス費用が多少高かろうが、金で買う価値があるのだ。稟議書に「実績世界一のデータベースを採用」と書けば誰も反対しない。「オープンソースを採用」と書いた瞬間、「何かあったら誰が責任を取るのか」の集中砲火を浴びる。日本の金融ITとはそういう世界である。
IT小僧の関係している会社で決済系のシステムにMySQLを使おうとしている開発会社があった。その会社は、Web系の仕事が中心ということもあってOracleは経験不足なのですが、発注元の意向もあって(要するにケチな経営者)の関係で無料で使えるMySQに決定「正直言って 不安だった」案の定 大量のトランザクションでトラブル続出、たった数千の同時アクセスでさばききれない(これは、設計と開発経験不足に問題があったのだが)という状況だった。
「信頼はカネで買え」という典型的な例である。
だが、その構図も永遠ではない。周辺系から静かに置き換えが進み、オープンソースの運用実績が金融の中で積み上がっていけば、「責任の所在」の答えも変わってくる。次の勘定系更改で各行がどんな判断を下すのか。王者の真価が問われるのは、まさにこれからの10年だと私は見ている。
まとめ
オラクル離れは、本当か。答えをまとめるとこうなる。
新規開発の世界では本当に起きている。開発者の支持はPostgreSQLへ移り、人気指標の勢いの差は歴然だ。一方で既存の基幹システム、特に金融の中枢では王座は揺らいでいない。そして当のオラクル社は、データベース人気の陰りをよそに、AIインフラ企業への大転換で過去最高の業績を叩き出している。
「王者は死なず。ただ戦場を変えるのみ」。半世紀にわたりデータの世界に君臨してきた巨人の次の一手を、引き続き注視していきたい。
