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IT小僧の時事放談 今日のAI話

月間1億人が使う「AIロマンタジー」とは?利用者の7割が女性の新市場を解説

2026年5月、Forbesが一本の調査記事を公開した。米国の消費者向けAIアプリ課金ランキングで堂々10位に食い込んでいたのは、コーディング支援でもオフィス自動化でもなく、利用者の約7割を女性が占める「対話型ロマンス小説」アプリだった――。本記事では、日本でほとんど報じられていないこの「AIロマンタジー」というジャンルを、米国のテック業界・出版業界・規制動向まで横断して腰を据えて読み解く。

- 目次 -

1. そもそも「ロマンタジー」とは何か
2. 主役は「Janitor AI」── 数字で見る規模感
3. なぜ"3人の男性"が女性向けサービスを作れたのか
4. 技術の裏側 ── 月13兆トークンを月13万ドルで回す
5. ファクトチェック ── 「女性7割」をどう読むか
6. 競合マップ ── Character.AI、Replika ほか
7. 法規制という地雷原 ── なぜ"次の一手"が難しいのか
8. 日本への示唆 ── なぜ我々の耳に届かないのか
9. IT小僧の本音コラム
10. まとめ

1. そもそも「ロマンタジー」とは何か

ロマンタジー(Romantasy)とは、ロマンス(Romance/恋愛)とファンタジー(Fantasy/空想)を掛け合わせた造語で、恋愛を物語の中心に据えた空想小説のサブジャンルを指す。竜騎士の学校、敵対する相手といつしか惹かれ合う「エネミーズ・トゥ・ラバーズ(Enemies to Lovers/敵から恋人へ)」、妖精の宮廷を舞台にした濃密な恋愛模様――そうした"大人向けYAファンタジー"が、近年の米国出版市場を席巻している。

火付け役とされるのが、サラ・J・マース(Sarah J. Maas)の妖精ロマンス連作「ACOTAR(イバラと薔薇の宮廷)」シリーズだ。著者は累計3,800万部超を売り上げたとされる。そこへ2023年、レベッカ・ヤロス(Rebecca Yarros)の竜騎士ロマンス『フォース・ウィング(Fourth Wing)』が登場。動画SNS・TikTok内の読書コミュニティ「ブックトック(BookTok)」で爆発的に拡散し、ジャンルを一気にメインストリームへ押し上げた。

勢いは数字にも表れている。シリーズ第3作『オニキス・ストーム(Onyx Storm)』は2025年1月の発売週だけで約270万部を売り、ニューヨーク・タイムズ紙によれば「過去20年で最も売れた大人向け小説」となった。市場調査会社サーカナ(Circana)は2025年6月、米国の紙のロマンス本売上が前年比24%増で、ロマンタジーが最も成長著しいテーマの一つだと報告している。要するに、この分野はニッチな趣味ではなく、巨大な購買力を持つ確立した市場なのである。

2. 主役は「Janitor AI」── 数字で見る規模感

この出版ブームの追い風を、対話型AIの世界に持ち込んだのが「Janitor AI(ジャニターAI)」だ。"清掃員"を意味する人を食ったような名前とは裏腹に、その実態はAIキャラクターと一対一で物語を紡ぐ、ロマンタジー特化のロールプレイ(Roleplay/なりきり対話)プラットフォームである。利用者は登場人物の性格・背景・口調を作り込み、AIにその人物を演じさせて延々と恋愛劇を続けられる。

Forbesが伝えた規模感は以下の通りだ。なお、これらは運営側の公表値であり、第三者による独立監査を経た数字ではない点に留意したい。

指標 公表値
1日あたりの利用者(DAU) 約250万人
月間訪問者 約1億人
累計登録者 1,500万人超
女性利用者の割合(運営推定) 70〜80%
米国の消費者向けAIアプリ課金順位 第10位

注目すべきは、生成AIブームの主役とされる「コーディング支援」「業務エージェント」を抑えて、女性向けのエロティック寄りロールプレイが課金上位に居座っている点だ。AI業界の語り口が"生産性"一色だったところへ、まったく別の巨大需要が顔を出した格好である。

3. なぜ"3人の男性"が女性向けサービスを作れたのか

Forbes記事のタイトルが端的に皮肉を効かせている。女性向け最大のAIロマンタジー・サイトを切り盛りしているのは、わずか3人の男性チームだというのだ。中心人物はオーストラリア出身の開発者、ヤン・ゾルトコウスキ(Jan Zoltkowski)。サービスは2023年6月にローンチされ、わずか1週間で登録者100万人を突破した。インスタグラムが同じ水準に達するのに2か月半を要したことを思えば、その立ち上がりの速さが分かる。

急成長の理由は明快だ。当時、主要なAIチャットは健全性フィルターが厳しく、恋愛・性愛をにおわせる会話はことごとく弾かれていた。Janitor AIはその「物足りなさ」の隙間を突き、より自由度の高いなりきり対話を提供した。創作意欲を持つ女性読者層が、ブックトック由来の熱量そのままに流れ込んだのである。

転機は2023年7月に訪れる。当初は外部の大規模言語モデル(LLM/大量の文章で訓練された言語AI)を借りて動かしていたが、性的表現を理由に提供元から利用停止を通告された。サービスは一時停止に追い込まれる。だが運営は撤退ではなく内製化を選び、数百台のGPUを投入して自前モデルの構築に踏み切った。この決断が、外部の方針変更に振り回されない独立性を生んだ。

4. 技術の裏側 ── 月13兆トークンを月13万ドルで回す

エンジニア目線で最も興味深いのは、コスト構造だ。Forbesによれば、Janitor AIは月あたり約13兆トークンを処理しながら、その費用はおよそ13万ドルに収まっているという。ロールプレイは長時間セッション・再生成(リジェネレート)・反復会話が前提のため、推論(インファレンス/学習済みモデルを使った応答生成)コストがそのままサービス設計の急所になる。

これを成立させているのが、二段構えのモデル戦略だ。一つは、利用者が自分で選んだ外部モデルを接続できる「BYO-API(ブリング・ユア・オウン・API/自前の鍵を持ち込む)」方式。もう一つが、自社開発の言語モデル「JLLM(JanitorLLM)」である。報道では、主流のトランスフォーマー型ではなく、あえて旧来型のRNN(再帰型ニューラルネットワーク/系列を順に処理する構造)を軸に独自訓練したとされ、業界の常識からはやや外れた選択が光る。オープンなモデル(Mistral など)も併用し、グーグルのGemma系列も検証したと伝えられる。

巨大なトラフィックを少人数・低コストで回すための割り切り――言い換えれば「過剰品質を追わず、用途に最適化する」という設計思想が、この事業の屋台骨になっている。

5. ファクトチェック ── 「女性7割」をどう読むか

! 数字の食い違いに注意

「利用者の70〜80%が女性」という値は、Forbes記事における運営側の自己申告(推定)である。一方、アクセス解析サービスのデータでは「男性が約65%・女性が約35%」と、ほぼ逆の数字を示す集計も存在する。両者は計測対象(登録時の自己申告か、ブラウザ推定か)も時期も異なるため、単純比較はできない。本記事では「運営は女性主導の市場と位置づけている」という事実関係として扱い、性別比そのものは確定値ではないと明記しておく。読者は『7割女性』を断定的な統計ではなく、サービスの自己定義として受け取るのが適切だ。

6. 競合マップ ── Character.AI、Replika ほか

この領域はJanitor AIの独走ではない。性格の異なるプレイヤーがひしめいている。主要な顔ぶれを整理しておく。

サービス 特徴 立ち位置
Janitor AI 外部モデル接続+自前JLLM。フィルター緩めで創作自由度が高い ロマンタジー特化の最大手
Character.AI 自社エンジン固定の閉じた構成。健全性フィルターは比較的厳格 汎用キャラ対話の大手
Replika 2017年開始の老舗。AIコンパニオン(寄り添う相手)路線 癒し・伴侶型の先駆け
SillyTavern 無料・オープンソースの操作画面。自分でモデルを繋ぐ上級者向け 技術者向けの自由構成

Janitor AIとCharacter.AIの最大の違いは、外部モデルを差し替えられるかどうかにある。前者は利用者が好みの言語モデルを接続でき、後者は自社エンジンに固定される。「より自由な創作」を求める層が前者へ流れる構図だ。なお、AIガールフレンド/ボーイフレンド系の有料アプリも乱立しており、大手のChatGPTも成人向け会話の解禁を予告するなど、市場全体が一気に拡張局面に入っている。

7. 法規制という地雷原 ── なぜ"次の一手"が難しいのか

急成長の裏で、この業界は法と倫理の地雷原を歩いている。Janitor AI自体には現時点で米国内の係争中の訴訟は確認されていないものの、コンパニオンAI全般を取り巻く環境は急速に厳しくなっている。

象徴的なのが競合のCharacter.AIだ。2026年1月、グーグルとCharacter.AIは、対話の末に亡くなった十代の利用者をめぐる遺族の訴訟について、複数の州で和解に至ったと報じられた。同社は2026年5月、医師を装ったとされる別の訴えも州当局から起こされている。米連邦取引委員会(FTC)も、コンパニオンチャットが子どもに与える影響を開示するよう主要AI各社に命じた。

Janitor AIの利用規約も、こうした圧力を反映している。18歳未満の利用禁止、未成年を想起させるキャラクターの禁止、画像の制約などが明記され、モデレーション(投稿監視)は画像解析ツールと人手の組み合わせで運用されている。だが、すべてが利用者投稿(UGC/ユーザー生成コンテンツ)で成り立つサービスゆえ、監視は本質的に重い。年齢確認、決済代行業者の審査、アプリストアの規約――これらをすべてクリアしながら無料から有料へ移行できるかが、事業の正念場になる。

8. 日本への示唆 ── なぜ我々の耳に届かないのか

これだけの規模を持ちながら、日本でほとんど話題にならない理由はいくつか考えられる。第一に言語の壁。サービスもブックトックの拡散も英語圏が中心で、日本語のロマンタジー文化(乙女ゲーム、BL、なろう系恋愛など)は別系統で独自に発達してきた。第二に、性愛を絡めたAIという題材が、国内メディアでは扱いにくいこと。第三に、決済・年齢確認の規制が国ごとに異なり、海外サービスがそのまま日本展開しにくいことだ。

逆に言えば、日本には乙女ゲームや恋愛シミュレーションという下地が分厚く存在する。そこへ対話型AIの即興性が加わったとき、何が起きるか――海外の先行事例は、その問いを先取りしている。技術・規制・コンテンツ倫理の三点セットで観察する価値は十分にある。

COLUMN

IT小僧の本音コラム

この話の肝は「エロ」ではない。
3人で、月1億訪問を、月13万ドルで回しているという一点に尽きる。これはAIインフラのコスト最適化の、ほとんど教科書のような事例だ。最新・最高性能のモデルを追わず、用途に合った"そこそこのモデル"を自前で持ち、トークン単価を徹底的に削る。我々が業務システムでLLMを採用検討するときに、まさに突き当たる論点そのものである。

同時に、教訓も生々しい。外部モデル頼みだった彼らは、提供元の一存でサービスを止められた。自前化で独立を勝ち取った代わりに、今度はモデレーションと規制という終わりなきコストを背負った。「依存を捨てれば自由になるが、責任は丸ごと自分に返ってくる」――内製か外部委託かで悩むすべての現場に、これほど分かりやすい寓話もないだろう。色物として笑うのは簡単だが、エンジニアとしては学べることが多すぎる事例だ。

9. まとめ

AIロマンタジーは、出版ブームと対話型AIが交差した地点に生まれた新市場だ。Janitor AIはその象徴であり、規模・コスト構造・少人数運営のいずれもがエンジニアにとって示唆に富む。一方で、性別比のような数字は鵜呑みにせず、規制と倫理のリスクも冷静に見据える必要がある。日本ではまだ静かなこの潮流が、乙女ゲーム大国の土壌とどう交わるのか――引き続き定点観測していきたいテーマである。

出典: Forbes(Anna Tong, 2026年5月7日)、Implicator.ai、Circana、各サービス公開情報ほか。本記事中の利用者数・性別比などは運営側の公表値・推定を含み、独立監査済みの数値ではない。

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