あなたの睡眠中の「脳波」が、インターネット上で誰でも閲覧できる状態になっていたとしたら
中国製スマート睡眠アイマスクに、脳波データを公開MQTTへ送信し、さらに外部から電気刺激コマンドを受け取れる可能性がある重大な脆弱性が報告されました。
本記事では、その危険性とIoT時代の見えないリスクをわかりやすく解説します。
目次
あなたの睡眠中の「脳波」が、インターネット上で誰でも覗ける状態になっていたとしたら
中国製とされるスマート睡眠アイマスクに、脳波データが公開MQTTブローカーへ送信されている可能性を示す調査が公開され、波紋が広がっています。さらに深刻なのは、設計や実装次第では外部から電気刺激(デバイス制御)に関わるコマンド送信が成立し得る点です。
本記事では、公開されたリバースエンジニアリング調査(Aimilios / bearblog)を起点に、どこが危険なのか、そして利用者が今すぐ取るべき現実的な対策を、専門用語をほどほどに噛み砕いて整理します。
スマート睡眠アイマスクとは? 何を測り、何をしているのか
スマート睡眠アイマスク(あるいは睡眠用ウェアラブル)は、睡眠中の状態を可視化し、睡眠体験を改善する目的で使われます。製品によって差はありますが、一般的には脳波(EEG)、心拍、体動などを組み合わせ、浅い眠り・深い眠り・REMといった睡眠ステージ推定を行います。
さらに一部の製品は、睡眠中のリズムに合わせて微弱な刺激(電気刺激や振動、光など)を与え、入眠や覚醒のタイミング、睡眠の深さの調整を狙います。ここがポイントで、単なる「計測ガジェット」ではなく、ユーザーの身体へ作用しうる装置でもあるのです。
問題の核心:脳波が“公開MQTT”で流れると何が起きる?
MQTTとは何か
MQTTはIoTでよく使われる軽量な通信方式で、センサー値を「トピック」と呼ばれる宛先に投げ、購読者が受け取る仕組みです。省電力・低帯域に強い一方、設計を誤ると誰でも購読できるデータ配信になってしまいます。
危険①:脳波がリアルタイムで覗かれる
調査の指摘が示す最悪ケースでは、脳波データが認証なし、あるいは弱い設定のMQTTブローカーを通じて流れます。もし第三者が同じトピックを購読できる状態なら、他人の脳波をリアルタイムに受信できてしまう可能性が生じます。
「脳波が漏れて何が困るの?」と思うかもしれません。しかし脳波や睡眠ステージは、生活リズムや体調の変化、ストレス状態の推定など、極めてプライベートな情報と結びつきます。実名と紐づかなくても、端末IDや利用時間帯、位置情報、アプリ側のアカウント情報などと組み合わされれば、“誰のデータか”が推定される危険性もあります。
危険②:外部から刺激・制御コマンドを送られる可能性
さらに深刻なのが「データ閲覧」だけで終わらない点です。MQTTは双方向のやり取りができるため、もしデバイスが制御系のトピックを受け付けている構造で、かつ暗号化や署名検証、認可が弱い場合、第三者がコマンドを投げ込める余地が生まれます。
ここで問題になるのは、睡眠中のユーザーが異常に気づきにくいことです。意図しない刺激(強度やタイミング)が起これば、睡眠妨害だけでなく体調不良の引き金にもなり得ます。これは情報漏洩の枠を超えた“身体への介入リスク”です。
危険③:IoTウェアラブルにありがちな「構造的な弱さ」
米国のセキュリティコミュニティでは以前から、低価格IoTで次のような課題が繰り返し指摘されています。暗号化が不十分、初期パスワードの固定、認証情報のハードコード、クラウド側の設定不備、アップデート体制の弱さなどです。
睡眠・健康系ウェアラブルは本来、医療機器に近い慎重さが求められます。ところが「便利なガジェット」として市場投入され、セキュリティが後回しになっていると、今回のように“計測データ”と“制御”が同居する危険な構造が表面化します。
なぜ米国で警戒が強いのか:生体データは“未来の個人情報”
生体データは、将来の技術進歩で価値が跳ね上がります。今は「睡眠ログ」に見えても、解析精度が上がれば、疲労、ストレス、認知状態などの推定に応用される可能性があります。つまり、脳波は“いま以上に機微”になる情報です。
そのため米国では、出自を問わず「生体データを扱うIoTの設計」に敏感で、クラウド送信や第三者基盤の利用、認証・暗号化の不足には強い批判が集まりやすい状況があります。今回の件も、技術的な不備にとどまらず、データの扱い方そのものが問われています。
利用者が今すぐできる現実的な対策
もし似たタイプの睡眠デバイスを使っているなら、次の順で対策すると現実的です。すべて完璧にやる必要はありませんが、できる範囲で「外へ出さない」「隔離する」「更新する」を優先します。
1) アプリ・ファームウェア更新を確認する
まずはアップデートの有無をチェックし、更新が提供されているなら適用します。セキュリティ修正はリリースノートに書かれないこともあるので、更新が出ているなら基本的に当てるのが無難です。
2) クラウド同期やリモート機能をオフにできないか確認
クラウド同期、外部共有、リモート操作などの設定がある場合、使っていないならオフにします。外部送信を止められるなら、それが最も強い対策です。
3) ルーター側で隔離する(家庭でできる“強い防御”)
可能なら、IoT機器専用のゲストWi-FiやVLANに入れて、PCやスマホのメインネットワークと分離します。さらに、外向き通信を制限できるルーターなら、該当機器のインターネットアクセスを絞る(または遮断する)という手もあります。
4) “刺激機能”がある機器は慎重に
電気刺激など身体へ作用する機能がある場合、メーカーの安全性・更新体制・説明責任が確認できるまで、使用を控えるという判断も現実的です。睡眠は毎日のことなので、リスクは小さく見積もらない方が安全です。
便利さの裏で、“眠っている間”が狙われる時代へ
今回の指摘が突きつけたのは、「センサーが外に繋がる」という当たり前の事実です。カメラ、マイク、生体センサーはすべて、ネットワーク経由で外へ漏れ得ます。さらにウェアラブルの一部は“測る”だけでなく“働きかける”側面を持ちます。
スマート睡眠デバイスは魅力的ですが、選ぶ側も「どこへ送られるのか」「止められるのか」「更新されるのか」をチェックする時代になっています。あなたの睡眠を良くするはずのガジェットが、逆にあなたのプライバシーと安全を削る存在にならないよう、今一度見直してみてください。
参考:My smart sleep mask broadcasts users' brainwaves to an open MQTT broker(Aimilios / bearblog)
https://aimilios.bearblog.dev/reverse-engineering-sleep-mask/