「世界は危機に瀕している。そしてそれは、AIやバイオ兵器だけが原因ではない」
2026年2月9日、AIの安全性において世界をリードする企業「Anthropic(アンソロピック)」の安全対策チームリーダー、ミリンアンク・シャルマ氏が辞職しました。彼が公開した退職の書面は、技術的な懸念にとどまらず、人類が直面している「 wisdom(知恵)」と「 capacity(能力)」のアンバランスに対する悲痛な叫びでした。
なぜ、AIの最前線にいた人物がこれほどまでに絶望的な言葉を残したのか? 欧米で今、何が起きているのか。そして、私たちはこの警告をどう受け止めるべきなのでしょうか。
目次
Anthropic元社員が投げかけた「危機の正体」
シャルマ氏が率いていた「Safeguards Research Team(保護策研究チーム)」は、AIが人類に害をなさないための防波堤となる部署でした。彼が辞職に際して訴えたのは、以下の3点に集約されます。
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価値観と行動の乖離: 「自分たちの価値観に自分たちの行動を支配させることの難しさ」を吐露。利益や競争を優先するあまり、安全性が後回しにされる業界の構造を暗に批判しています。
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相互接続された危機: AI単体の暴走ではなく、既存の地政学的リスクや気候変動、サイバー犯罪がAIによって増幅され、制御不能になることを危惧しています。
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知恵の欠如: 「世界を変える能力(AI)が拡大する一方で、それを制御する人類の知恵が追いついていない」という根本的な未熟さを警告しました。
欧米で深刻化するAIの最新リスク事例(2026年)
欧州や米国では、AIはもはや「便利なツール」ではなく「実在する脅威」として対策が急がれています。
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バイオテロへの加担: シャルマ氏自身が研究していた分野ですが、AIが未知のウイルスや化学兵器の設計図を生成し、専門知識のない個人がそれを利用できてしまうリスクが現実味を帯びています。
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「AI軍拡競争」による社会の崩壊: 2026年、世界経済フォーラムは「AIによるサイバー軍拡競争」を主要リスクに挙げました。特に北米では、ディープフェイクを用いた巧妙な詐欺や、世論操作が民主主義を脅かすレベルに達しています。
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EU AI法の本格運用: 欧州では2026年から「EU AI法」が順次適用され、人権を侵害するAI利用には巨額の罰金が課されるようになりました。これは裏を返せば、それほどまでにAIによる差別や監視が深刻化していることの証左です。
日本におけるAIの捉え方:リスクの質が違う?
一方、日本ではAIに対する危機感の性質が少し異なります。
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「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」への警戒: 日本企業が最も懸念しているのは、AIが誤情報を生成することによる「信頼失墜」です。RAG(検索拡張生成)などの技術で「嘘をつかせない」対策に注力しています。
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サイバーセキュリティの初ランクイン: 2026年、日本のIPA(情報処理推進機構)は「情報セキュリティ10大脅威」に初めて「AIの利用をめぐるサイバーリスク」をランクインさせました。AIを悪用したフィッシング詐欺などが身近な脅威として認識され始めています。
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「共存」への期待と不安: 日本では、労働力不足を背景にAIを「頼れるパートナー」として受け入れる土壌が強い一方で、責任の所在が不明確な「ブラックボックス化」への不安が根強く残っています。
結論:2026年、私たちは「知恵」を問われている
Anthropicを去ったシャルマ氏は、今後「詩」や「対話」の世界へ進むと言います。これは、高度な科学技術だけでは解決できない「人間としての倫理や知恵」を再構築する必要があると感じたからかもしれません。
AIが私たちの能力を何倍にも引き上げる今、それをどう使うかという「心」の安全性が、今まさに問われています。