※本ページはプロモーションが含まれています

IT小僧の時事放談

退役空母・潜水艦の原子炉でAIデータセンターを動かす?米DOE融資保証を狙う“軍用原子炉リユース”のアイデア

AIの進化は「計算資源の競争」から、いまや「電力の競争」の時代

そんな象徴的なニュースが米国で報じられました。退役した空母や潜水艦の“海軍用原子炉”を、AIデータセンターの電源として再利用するという大胆な構想です。
荒唐無稽に聞こえますが、提案元企業名、想定出力、資金調達の枠組みまで具体的に語られており、少なくとも「実在する提案」であることは確かです。

問題は、本当に実現できるのか/今どこまで進んでいるのか?
そして、この動きは日本のデータセンターにも示唆を与えるのか?

ここを深掘りします。 Tom's Hardware+1

「退役軍艦の原子炉をデータセンターへ」提案の中身

報道によれば、提案したのは HGP Intelligent Energy LLC。退役艦艇由来の原子炉を、テネシー州オークリッジ近郊のデータセンター・キャンパスに転用し、約450MWと約520MW規模の“常時電源(baseload)”を供給する構想だとされています。 Bloomberg.com+1

資金面では、プロジェクト総額を 約18〜21億ドルとし、DOEの融資保証を活用して立ち上げを狙う——という筋書きが紹介されています。 Tom's Hardware+1

ここで重要なのは、これは「米政府が採用決定した」話ではなく、民間側が“融資保証を含む支援”を求めて提案している段階だという点です。 Tom's Hardware+1

AI data centers may soon be powered by retired Navy nuclear reactors from aircraft carriers and submarines — firm asks U.S. DOE for a loan guarantee to start the project | Tom's Hardware
https://www.tomshardware.com/tech-industry/startup-proposes-using-retired-navy-nuclear-reactors-from-aircraft-carriers-and-submarines-for-ai-data-centers-firm-asks-u-s-doe-for-a-loan-guarantee-to-start-the-project


提案は実在、ただし“構想〜申請準備”レベル

ユーザー提示のTom’s Hardware記事に加え、BloombergやSiliconANGLEなど複数媒体が、同じ企業名・同じ出力レンジ・同じオークリッジ計画として報じています。つまり、少なくとも “提案が出た”こと自体は裏が取れる状況です。 Tom's Hardware+2Bloomberg.com+2

一方で、現時点で確認できるのはあくまで

  • 企業がDOE融資保証を狙う意向

  • オークリッジ周辺でのAI/電源プロジェクト募集という政策環境
    までで、「許認可が下りた」「建設が始まった」といったフェーズではありませんThe Department of Energy's Energy.gov+1


米政府が“AI×電源”を国家案件化している

背景として、DOEはオークリッジ等で「AIデータセンターと電源整備」をセットで誘致するRFP(提案募集)を出しています。応募企業は建設・運用・廃止措置や、系統連系(インターコネクション)まで含めた計画が求められる、と明記されています。 The Department of Energy's Energy.gov

また、DOEの**Energy Dominance Financing Program(融資保証)**は、信頼性向上や電源供給力の確保につながる案件を対象にする枠組みとして説明されています。今回のHGPは、まさにこの政策トレンドに乗せようとしている形です。 The Department of Energy's Energy.gov


 技術的に可能なのか?「物理的には“できる”、しかし“民生化”が難所」

そもそも退役原子炉はどう処分されている?

米国では、退役した艦艇の原子炉区画(reactor compartment)を切り出して封止し、DOEのハンフォード・サイトに陸上埋設処分する運用が長年続いています。州政府(オレゴン州)も輸送安全の説明を公開しており、「退役原子炉区画を“輸送し、陸上で管理する”」こと自体は既存プロセスです。 oregon.gov+1

つまり、「退役原子炉をどこか別の場所へ運ぶ」ことは前例があります。ここが“完全な絵空事ではない”理由の一つです。

では「データセンター用に再稼働」は?

ここからが本題で、難所は技術より**制度(規制)**です。SiliconANGLEは、海軍用原子炉は商用炉の枠組みにそのまま当てはめにくく、既存のNRC(原子力規制委員会)ライセンスの枠外になりやすい点を指摘しています。 SiliconANGLE

一般論としても、たとえ“炉そのもの”が健全でも、民生の発電所としては

  • 立地の安全審査

  • 放射線防護・警備(核物質防護)

  • 運転員体制、非常時対応

  • 周辺自治体・住民合意(米国ならNEPA等の環境審査)

  • そして廃止措置と費用積立
    までがセットになります。

HGP自身も、収益分配や廃炉基金に触れていると報じられており、**“廃止措置まで含めて説明しないと成立しない案件”**であることは織り込んでいるように見えます。 Tom's Hardware


AI電力のゲームチェンジ要素

この手の構想が注目される理由は、AIデータセンターが欲しているのが「安い電力」だけではなく、24時間365日、出力が読める常時電源だからです。

  • 再エネ+蓄電池は拡大中だが、長期の無風・悪天候や季節変動への設計が難しい

  • ガスタービン等は導入が早い一方、燃料・排出・価格変動リスクがある

  • 原子力は“安定供給”の代表格だが、新設は時間もコストも重い

そこで、「既存の退役資産を転用して、(新設より)早く常時電源を作れるのでは?」という発想が出てきます。もっとも、前述の通り**“規制をどう通すか”が最大のボトルネック**になりそうです。 SiliconANGLE+1


日本編:データセンターが“自前で電力問題を解く”動きはある?

日本で米国のように「退役原子炉を転用」は現実的ではありませんが、方向性としては **“電力制約を回避するため、立地・系統・自家電源をセットで考える”**流れが強まっています。

「原発の近くに建てたい」—立地で解く発想

World Nuclear Newsは、日本のデータセンター計画で原子力のある地域(関西・九州・島根など)を候補にする動きを紹介しています。電力の規模と価格、そして安定性を優先するという文脈です。 World Nuclear News

現実に普及している“自前電源”:非常用発電(ガスタービン等)と燃料備蓄

日本のデータセンターは、停電対策としてUPS+非常用発電(ガスタービン等)を備えるのが一般的です。たとえばNTT系データセンターの仕様では、非常用発電や連続無給油運転時間などを明示しています。 NTT+1
また、さくらインターネットも、北海道ブラックアウトを踏まえた燃料備蓄と非常用電源運用の経験を公開しています。 さくらインターネット

ここは「非常時」用途が中心ですが、AIで負荷が跳ね上がると、将来的に “非常用”の位置づけ自体が見直される可能性はあります(常用に寄せると、燃料調達・排出・近隣環境の論点が一気に重くなるため、制度設計もセットになります)。

マイクログリッド/蓄電池の制度整備も進む

国の資料でも、分散型エネルギー(自営線マイクログリッド等)や系統用蓄電池の制度整備が進んでいることが示されています。データセンター立地と組み合わせれば、「系統が弱い場所でも、地産地消+備え」で戦える設計が現実味を帯びます。 経済産業省+1


まとめ

  • 記事は本当か? → 企業提案としては実在し、複数メディアで裏が取れる。 Tom's Hardware+2Bloomberg.com+2

  • いまどの段階? → 採択・着工ではなく、融資保証などを狙う“構想〜申請準備”の位置。 Tom's Hardware+1

  • 技術的に可能? → 退役原子炉区画の輸送・管理は前例がある一方、民生発電としての許認可・安全審査が最大の壁。 oregon.gov+1

  • 日本への示唆 → 原発近接立地の検討、非常用発電・燃料備蓄の強化、マイクログリッド/蓄電池など、“電力と一体でDCを設計する”流れは加速しそう。 World Nuclear News+2さくらインターネット+2

参考情報(今回参照した主要ソース)

「融資保証の事前審査(プリ申請)に入ったか」「NRC等をどう整理するか」「立地(オークリッジ周辺)の具体化」などのニュースが、出てきたら再度記事にしようと思っています。

-IT小僧の時事放談
-, , , , , , , , ,

Copyright© IT小僧の時事放談 , 2025 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.