AIの時代、情報を支える“黒い箱”とも言われるデータセンターの建設が世界中で加速している。
しかしその箱を 「どこに建てるか」 が、環境負荷・地域活性・電力インフラにとって極めて重要な選択になってきた。
米国の最新分析では、立地が悪ければ年間数千万トンのCO₂増というシナリオも示されており、日本でも地方自治体が誘致合戦に乗り出しつつも、脱炭素電力や地域貢献の壁に直面している。
本稿では、理想の立地条件を環境・地域・電力という三つの観点から探り、米日それぞれの状況と今後のあり方を考えていきたい。
目次
米国における「立地が環境を決める」現実
米国で進むデータセンター建設ラッシュに対し、研究者たちは立地が環境負荷を大きく左右することを強調している。
ある分析によれば、もし適切な電力グリッドや水資源を持たない地域に建て続けると、同国のデータセンター建設による年間追加排出量が最大で 4,400 万トンものCO₂相当に達する可能性がある。
wired.com+2E&E News by POLITICO+2
たとえば、カリフォルニア州では、データセンターが電力・水使用量を倍増させ、環境監視団体が「透明性のないまま建設が進んでいる」と警告しています。
CalMatters
このように、「電力が再エネ主体か」「水が豊富か」「冷却に有利な気候か」といった立地条件が環境影響を決める鍵となっており、米国ではテキサス、モンタナ、ネブラスカ、サウスダコタなどが“次世代立地候補”として挙げられている。
wired.com+1
地域活性化とインフラ負荷――“好立地”の裏側
立地が環境に良いというだけではなく、地域経済やインフラにも大きな影響を与える。
米国ルイジアナ州では、Meta のデータセンター案件に伴い 30 億ドル超の電力インフラ整備が必要となり、その費用負担を巡って議論が巻き起こっている。
AP News
また、テキサス州などでは地域住民が「住宅用地がデータセンターに転用される」「電力供給の調整が難しくなる」といった懸念を表明しており、地域の活性化どころか、地元住民との軋轢を生む可能性もある。
Houston Chronicle
このことから、立地を選ぶ際には“地域が受け入れ、支えるインフラとコミュニティ”という視点も不可欠と言えそうだ。
日本における国家戦略と地方誘致の潮流
日本では、データセンターの立地に関して政府が明確な政策を打ち出しており、地域誘致と脱炭素電力確保を両立させようという動きが出ている。
たとえば「GX戦略地域(グリーントランスフォーメーション戦略地域)」として、データセンターを含む産業集積を進める地方への優遇制度が設けられている。
デジタルインフラ・ラボ+1
また、調査によれば日本のデータセンター需要は2034年までに電力消費量が倍増し、ピーク需要が4〜5%を占める可能性があるとの見通しも出ている。
Wood Mackenzie
しかし、課題も明らかだ。「データセンターは東京・大阪圏に集中」「再エネ普及が遅れておりデータセンター立地先として電力条件が十分とは言えない」との指摘がある。
つまり日本では、地方誘致を進めながらも「クリーン電力・インフラ整備・地域との共生」まで視野に入れた立地選定が焦点となっている。
立地選定の3大条件と実践論
総合してみると、データセンター立地の“理想モデル”には少なくとも以下の三つが求められる:
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再生可能エネルギーが豊富かつ電力系統に余力がある地域
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冷却・水資源・土地・地理リスク(地震・洪水)など環境条件が整っている地域
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地域経済・インフラ・コミュニティとの関係が整備されており、単なる建設ではなく持続可能な活用が可能な地域
例えば米国では、電力グリッドが再エネ主体で水ストレスが低く、土地が安価であるネブラスカ州などが候補とされている。
日本でも、地方の“産業集積再生”型のデータセンター立地が模索されており、地域の活性化を目的に水熱利用・排熱活用などを取り入れた施設も登場している。
たとえば、某社が地域密着型の高効率データセンターを地方で設立し、排熱を地域暖房に利用するモデルを提示している。
電経新聞
加えて、水や冷却の負荷をどう削減するか、建設に伴う「組込み排出(embodied emissions)」をどう管理するかも、立地選定の際に議論されるべき論点になっている。
カーボンダイレクト
今後の視点―立地選定が“未来を決める”
データセンターは「どこに建てるか」で、単なるITインフラから「地域発の産業基盤」か「環境負荷の重荷」かに変わる可能性を孕んでいる。
今回の米日比較から見えてきたのは、環境・地域・電力という三位一体で立地を選定しなければ、折角の投資が“経済効果薄・環境負荷大・地域の反発あり”という三重苦になるということだ。
技術進化や再エネ導入が進むとはいえ、データセンター建設のスピードはそれらを上回るという分析もあり、立地の“先読み”がますます重要になっていくだろう。米国では既に“どこに建てるべきか”という議論が活発であり、日本でも政策が追随しつつあるが、地方自治体・企業・住民が三者で立地戦略を描くことが急務とも言われている。
つまり、立地の選定を「コスト × 規模」で語る時代は終わりつつあり、「環境適合 ×地域共生×電力インフラ整備」という次世代の評価軸が立ち上がっている。
データセンター建設を検討する全てのステークホルダーは、この視点を共有することで、未来を守る一歩を踏み出せるだろう。
ひとりごと
日本の場合、地方自治体が誘致する場合が多いとも言える。
現在、地方の多くは、人口流失にともない、経済状況が悪化している。
私の故郷も戦後の食料増産で干拓をしたけど政府の減反政策で干拓地に入った人々は、経済的に厳しくなった。
そこで 隣接する大規模な工業施設と港の建設に乗じてベッドタウンとして田んぼを埋め立てた。
大規模な工業施設の発展で住民が増えたのは、いいのですが、鉄の不況で一気に景気が悪化
工業地帯の撤退、縮小化でベッドタウンの価値が消えて行く
また、急遽な埋め立てのため 先の震災で液状化でインフラがやられて 引っ越しをするヒトが増えてしまった。
このような 地域は全国に広がっていると思われます。
では、ここにデータセンターを構築して地方が活性化されるのだろうか?
AIバブルも囁かれている状況でリスクが高いような気もしますが・・・
参考記事・情報源
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WIRED「If the US Has to Build Data Centers, Here’s Where They Should Go」 wired.com+1
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The Guardian「What the datacenter boom means for America’s environment and electricity bills」 ザ・ガーディアン
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CalMatters「Data centers are putting new strain on California’s grid」 CalMatters
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ArXiv「Environmental Burden of United States Data Centers in the Artificial Intelligence Era」 arXiv
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Japan Times「Japan faces fresh energy challenge as it seeks to expand power-hungry data centers」 The Japan Times
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Shulman Advisory「Japan Plans to Expand Data Centres Near Decarbonized Power Sources」 Shulman Advisory
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JETRO「Subsidy for Development of Regional Data Centers」 ジェトロ
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NEC Journal article「Green Transformation of Data Centers and Energy-Saving …」 NEC Global