「AppleがMacで“Chrome使用をやめよ”と警告した」
と強い見出しが拡散している。
その“警告”はmacOSの緊急アラートではなく、Apple公式サイトのSafariページにあるプライバシー訴求だ。
ではなぜAppleは、ここまで踏み込んでChromeを名指しするのか。
答えは脆弱性よりも“追跡”にある。フィンガープリンティング、WebKitの追跡防止、そして日本のスマホ新法による「選べる環境」の拡大まで、いま起きている変化を整理していこう。
目次
「警告」の正体
Forbes JAPANが指している“警告”の根拠は、Apple公式のSafariページにある次の主張です。
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「Switch to a browser that protects your privacy.(プライバシーを守るブラウザに切り替えよう)」
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「Unlike Chrome, Safari truly helps protect your privacy.(Chromeと違い、Safariは真にプライバシー保護に役立つ)」 Apple+1
ここで重要なのは、これは Appleのプロダクトページ/キャンペーン文脈であって、
「Chromeが危険だから今すぐ削除しろ」といった OSのアラートやCVE直結の緊急告知とは別物、という点です。
実際、過去にも「Appleが“Chromeを削除しろ”と公式に警告した」という話題が拡散した際、9to5Macは「公式の強制的な警告ではなく、Safariの広告・比較訴求が誤って“緊急警告”扱いされている」と整理しています。 9to5Mac
Appleが“Chromeやめろ”方向の主張をする理由
ポイントは **セキュリティ(脆弱性)ではなく、プライバシー(追跡)**です。
追跡(トラッキング)をめぐる思想の違い
AppleはSafariの売りとして、以下を繰り返し強調しています。
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クロスサイトトラッキング対策
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既知トラッカーからのIPアドレス秘匿 Apple
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フィンガープリンティング耐性(端末特性の組み合わせで個体識別される追跡を妨げる) Apple+1
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WebKitのトラッキング防止(ITP、アンチフィンガープリンティング等)が基本オンである、という立場 WebKit+1
一方でGoogleは広告ビジネスが基盤にあり、ブラウザは(ユーザー体験の改善も含めて)計測・広告技術と相性が良い。
Appleはここを対立軸にして「Safari=プライバシー」と言い切るのが最も強いマーケティングになります。
「なぜ今このタイミングで記事が増えたのか」
Forbes JAPAN記事内では、第三者の“プライバシースコア”のような調査(Digitainの報告書)を材料に、Chromeが不利だとする文脈が紹介されています。 フォーブスジャパン
ただし、こうした“スコア”は 評価軸の取り方で結論が動きやすいので、一次資料(測定方法)を確認しないと、断定は危険です(記事としては「議論の燃料」にはなります)。
セキュリティ面では「Chromeを捨てろ」より「最新に更新しろ」
現実の被害に直結しやすいのは、ブラウザの“追跡”よりも、未修正の脆弱性です。
AppleもGoogleもゼロデイ級の不具合に対して緊急パッチを出すことがあり、どのブラウザでも“最新版に保つ”のが最優先です。 IT Pro
つまり、実務的には
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Chromeを使い続けるなら 自動更新オン+常に最新版
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Safariに寄せるなら Safariの追跡防止・プライベートブラウズ等を理解して使う
が合理的です。
「スマホ新法でiPhoneの基本ブラウザを変えられるようになったから」なのか?
結論:直接の理由というより“別の流れ”です。
日本のスマホ新法(スマホソフトウェア競争促進法)では、ブラウザや検索エンジンについて 選択画面(チョイススクリーン)の表示など、利用者が選びやすくする措置が求められています。 公正取引委員会+2公正取引委員会+2
Googleも同法対応として、iOS上のChromeアプリを含めて“選択画面を順次表示”すると説明しています。 blog.google
ただし、Appleの「Unlike Chrome…」は 日本だけの規制対応というより、グローバルに展開してきたSafariのプライバシー訴求に見えます。 Apple+1
スマホ新法で「ユーザーが選べる」環境が整うほど、Appleが“選ばれる理由”としてSafariを推すインセンティブは上がるので、間接的には追い風——この整理がいちばん自然です。 公正取引委員会+1
アップルは数億人規模のiPhoneユーザーに対し、iOS 18からiOS 26へのアップグレードを強制したばかりです。
新バージョンのOSには、アップルの警告の背景要因の1つであるフィンガープリンティングに対する既定の保護強化が含まれています。
まとめ
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Chrome=危険、Safari=安全の二択ではなく、まずは「ブラウザを最新に保つ」が防御の土台。 IT Pro
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プライバシー重視なら、Safariのトラッキング防止・フィンガープリンティング耐性を理解して使う価値はある。 Apple+2Apple+2
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逆に、業務でChrome拡張やGoogle連携が必要なら、Chromeを捨てるより「更新・権限・拡張機能の棚卸し」を優先した方が事故は減る。