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IT小僧の時事放談

スマートウォッチの消費カロリーは「盛って」いた|4機種を精密機器で検証

運動中に「◯◯kcal消費」と表示してくれるスマートウォッチ。あの数字を信じてケーキを一切れ多く食べている人は、いったん立ち止まったほうがいい。研究機関がラボ用の精密機器と突き合わせたところ、多くのモデルが消費カロリーを実際より多めに「盛って」いたことが分かった。フロリダ国際大学のチームが学術誌PLOS ONE(2026年)に発表した検証結果を、要点だけ噛み砕いて解説する。

3行でわかる結論

1. 検証した4機種のうち3機種が、統計的に有意なレベルで消費カロリーを過大表示していた。

2. もっとも盛っていたのはGarminのモデル。もっとも実測に近かったのはAppleのモデル。

3. 体脂肪率が高い人ほど誤差が拡大した。一方で肌の色による差は確認されなかった。

何を、どうやって検証したのか

研究チームは、ヒスパニック系の成人58名に4種類のスマートウォッチを同時に装着させ、背もたれ付きの固定自転車(リカンベントバイク)で強度を変えながら漕がせた。その間の消費カロリーを、呼気ガスを分析するラボ用の据置機器で同時に測定し、これを「正解」の基準値とした。

この据置機器による測定は間接熱量測定(インダイレクトカロリメトリー)と呼ばれ、消費カロリー計測の事実上のゴールドスタンダードだ。つまり「腕時計の推定値」対「ラボの実測値」を、同じ運動・同じ人物・同じ時間で真正面から比較した点にこの研究の価値がある。

確定した事実

検証したのはApple Watch Series 8とFitbit Sense 2、

そしてSamsung Galaxy Watch 5とGarmin Forerunner 955の合計4機種。

基準機はCOSMEDのK5。被験者の肌はフィッツパトリック分類でIII〜Vの範囲だった。

どれだけカロリーを「盛って」いたか

ここで言う「バイアス(偏り)」とは、腕時計の表示からラボの実測値を引いた差のこと。プラスなら実際より多く表示している=盛っている、マイナスなら少なく表示している、を意味する。外れ値を除いた後の平均バイアスは次のとおり。

機種 平均バイアス 過大表示 ひとこと
Garmin +68.6 kcal あり 盛りが最大
Samsung +56.8 kcal あり 大きく過大
Apple +21.6 kcal あり 盛りは最小
Fitbit +3.1 kcal なし※ ※後述の注意

数値は外れ値を除外した後の平均バイアス。誤差の割合(APE=絶対パーセント誤差)は機種を通じて中央値でおおむね15〜25%に達していた。

もっとも盛った機種・もっとも正確だった機種

もっとも盛っていたのはGarminのモデルだった。平均で実測より約69kcalも多く表示しており、これは短時間の運動では無視できない差だ。Samsungのモデルもこれに続き、約57kcalの過大表示だった。

もっとも正確だったのはAppleのモデル。過大表示という傾向自体は同じだが、そのズレは約22kcalと最小で、計測失敗も無かった。数字の信頼性という点では頭ひとつ抜けている。

要注意:Fitbitの「正確さ」は見かけだけ

表ではFitbitの平均バイアスが+3.1kcalと最も小さく、一見もっとも正確に見える。しかしこれは「大盛り」と「少なめ」が偶然打ち消し合った平均のマジックだ。実際にはK5基準の450%を超えるありえない推定が7件(全体の約13%)発生しており、これらを含めると平均バイアスは128.6kcalと全機種で最悪になる。逆に外れ値を除いたモデル上では約20kcalの過小評価に振れる。数字が暴れており、絶対値の指標としては信頼しづらい、というのが実態だ。

体脂肪率が高い人ほど誤差は拡大する

この研究のもう一つの重要な発見は、体脂肪率が高いほど誤差が大きくなるという傾向が、全機種で共通して見られたことだ。しかも機種によって悪化の度合いが違い、FitbitとGarminは体脂肪率の上昇に対して特に急に誤差が膨らんだ。

背景には、多くの推定アルゴリズムが比較的やせた人のデータを中心に調整されていること、脂肪組織が厚いと光学式センサーの光が届きにくくなること、手首の軟部組織が動いてノイズになりやすいことなどがある。皮肉なことに、体重管理のために計測を最も必要とする層で、数字が最も当てにならないという構図になっている。

肌の色による差は見られなかった

論文タイトルには「肌の色」が掲げられているが、消費カロリーの誤差に関しては、フィッツパトリックIII〜Vの範囲で有意な影響は確認されなかった。光学式心拍センサー(フォトプレチスモグラフィ、PPG)は原理上メラニンの影響を受けやすいとされるが、少なくとも今回の統制された条件下では、体脂肪率ほどの効果は出なかったということだ。

解釈のための補足(仮説・限定事項)

この結果は「肌の色は無関係」を意味しない。被験者はヒスパニック系に限られ、最も色の濃いタイプVは4名と少ない。運動も固定自転車のみで、日常生活での動きは検証されていない。あくまで限定条件での結果、と受け止めるのが妥当だ。

数字は「監査ログ」として読め

この結果を、機器の善し悪しの話として終わらせるのはもったいない。本質は「推定値を確定値のように扱ってはいけない」という、システム運用では当たり前の原則そのものだ。腕時計が返すkcalは、実測ではなく心拍と加速度から確率的に推定した出力にすぎない。入力が劣化すれば出力も劣化する。体脂肪率が高いほど誤差が増えるのは、入力信号の品質が落ちるからで、これは典型的な「ゴミ入力・ゴミ出力」の構図だ。

Fitbitの一件はさらに示唆的だ。平均値だけを見れば優秀に見えたのに、内訳を開くと13%が異常値だった。集計値だけで健全性を判断せず、分布や外れ値まで見に行かないと真実を見誤る。これはログ監視でパーセンタイルや外れ値を必ず確認するのと同じ話で、平均は都合よく嘘をつく。

では腕時計は無価値かというと、そうではない。絶対値の精度は低くても、同じ人が同じ条件で使い続ける限り、相対的な増減の傾向はそれなりに追える可能性がある。昨日より今日は動いた、先週より運動量が落ちた、という差分を見る用途なら十分に実用的だ。要は、絶対値を鵜呑みにして食事量を決める使い方が危ういのであって、トレンドの物差しとして割り切れば話は変わる。数字の性質を理解して使う人にとっては、今日も良い相棒であり続ける。

まとめ

スマートウォッチの消費カロリーは、多くのモデルで実測より多めに出る。盛りが最も大きかったのはGarmin、最も実測に近かったのはApple。

平均値が優秀に見えたFitbitは、中身を開くと数字が不安定だった。体脂肪率が高いほど誤差は拡大し、その値は運動の消費カロリーとしては小さくない。表示される数字は「確定した実測」ではなく「推定された参考値」。この一線さえ引いておけば、腕時計の数字は今日も十分に役に立つ。

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