IT小僧の時事放談
Microsoft Edge が拡張機能を Manifest V3 へ全面移行
従来型の広告ブロッカーはどうなる?
Microsoft が Edge の拡張機能(エクステンション)について、古い方式である Manifest V2(マニフェスト バージョン2)を2026年8月から段階的に無効化し、新方式の Manifest V3(マニフェスト バージョン3)へ移行すると発表しました。
一般利用者は2026年末までに移行を完了する予定で、V2版の uBlock Origin など一部の広告ブロッカーが使えなくなる見込みです。
「なぜ広告ブロッカーが道連れになるのか」「V2 と V3 で何が違うのか」「広告ブロックを続けたい人はどうすればいいのか」。現役エンジニアの目線で、できるだけ噛み砕いて解説します。
この記事の要点
・Manifest とは拡張機能の設計図にあたる設定ファイルのこと。V3 は権限や通信制御の仕組みを大きく作り替えた新世代版。
・V3 では通信を止める役割が旧来の webRequest から declarativeNetRequest(宣言型の事前ルール方式)へ置き換わり、これが広告ブロッカーの弱体化に直結する。
・Google は先行して2025年7月に全利用者で V2 を停止済み。Edge は約1年遅れで同じ道をたどる。
・広告ブロックを続けたいなら、軽量版へ切り替える、別ブラウザーを併用する、といった選択肢がある。
そもそも Manifest(マニフェスト)とは何か
Manifest とは、拡張機能に付属する設定ファイルです。その拡張機能が「何をするものか」「どんな権限を要求するか」「どのファイルで動くか」といった情報がここに書かれています。ブラウザーはこのファイルを読み込んで拡張機能を動かします。いわば拡張機能の身分証明書であり設計図です。
この仕様には版(バージョン)があり、長く使われてきたのが V2、その後継が V3 です。V3 はもともと Chromium(クロミウム、多くのブラウザーの土台となる基盤プロジェクト)の取り組みで、Edge もこの基盤の上に作られているため、同じ流れに沿って移行が進みます。
補足:Manifest V3 という発想そのものは新しくありません。Microsoft は2020年10月の時点で V3 採用の方針を表明しており、Edge の拡張機能ストアは2022年7月から新規の公開向け V2 拡張機能の受付を停止していました。今回はそこに、ようやく明確な無効化スケジュールが付いた、という位置づけです。
Manifest V2 と V3 は何が違うのか
技術的な差は多岐にわたりますが、一般利用者に効いてくる違いを4点に絞って表にまとめました。
| 観点 | Manifest V2 | Manifest V3 |
| 通信の制御方法 | webRequest で通信をリアルタイムに監視・変更・遮断できる | declarativeNetRequest で事前登録した固定ルールに従って遮断する |
| ルールの柔軟さ | 動的に無数のルールを適用でき、複雑な条件も表現しやすい | ルール数に上限があり、事前宣言が前提で柔軟性は下がる |
| バックグラウンド処理 | 常駐ページで動き続ける | 必要時だけ起きる短命な処理(サービスワーカー)へ変更 |
| 権限とコード | 広い権限や外部コードの読み込みが可能 | 権限は最小限志向、外部コードの読み込みは制限 |
ざっくり言えば、V3 は「拡張機能が持てる力を絞り、あらかじめ許可した範囲でしか動けないようにする」方向の設計です。Microsoft や Google はこれをセキュリティー・プライバシー・性能の向上と説明しています。一方で、その絞り込みが広告ブロッカーの中核機能を直撃する、というのが今回の論点です。
なぜ uBlock Origin など従来型ブロッカーが使えなくなるのか
従来型の広告ブロッカーは、通信を横取りして中身を見て、その場で判断して止める、という方式で強力な遮断を実現していました。これを支えていたのが V2 の webRequest です。ページが読み込まれる前に、広告や追跡用の通信を動的に見極めて遮断できたわけです。
V3 では、この「その場で動的に判断する」やり方が実質的に封じられ、代わりに declarativeNetRequest による「事前に登録した固定ルールに従うだけ」の方式になります。しかもそのルール数には上限が設けられています。ここが決定的な弱点です。
数字で見る「上限」の壁
報道ベースの数字では、Chromium 系で設定できる静的ルールの上限はおよそ3万件とされます。ところが uBlock Origin は本気で使うと30万件規模のルールを扱うと言われており、単純計算で1桁足りません。この差が、遮断の精度差となって表れます。
開発者の Raymond Hill 氏は、V3 対応版として uBlock Origin Lite(軽量版、通称 uBOL)を用意しています。ただし本人が「機能を削った版」と明言しているとおり、これは完全版の置き換えではありません。基本的な広告は止められますが、動的で高度なフィルタリングや細かな挙動制御は削られており、巧妙な広告や新種の追跡はすり抜けやすくなります。
つまり「広告ブロックが完全にできなくなる」のではなく、「強力な従来型が使えなくなり、精度の落ちた版に置き換わる」というのが実態に近い表現です。
Google はすでに先行、Edge は約1年遅れで追随
この流れは Google が先行して進めてきたものです。時系列を整理すると、Edge の今回の発表がどの位置にあるのかが見えてきます。
| 時期 | Chrome 側の動き |
| 2024年6月頃 | ストア上で V2 拡張機能の利用者へ警告表示を開始 |
| 2025年3月末 | 全チャンネルで V2 拡張機能を既定で無効化 |
| 2025年7月24日 | 全利用者で V2 を恒久的に無効化、切り替えスイッチも削除 |
| 2026年6月〜7月 | 残っていた回避用フラグも順次撤去、抜け道が消滅 |
| 2026年8月31日 | 残る V2 拡張機能をウェブストアから削除予定 |
Edge は、Chromium を土台にしながらも、しばらくは完全版の従来型ブロッカーが動く数少ないブラウザーとして残っていました。今回の発表で、その猶予期間にも終わりの日付が付いた、という構図です。
Edge の今回のスケジュール
Microsoft が2026年8月7日に公表した内容を整理すると、次のような段取りになります。
| 対象・時期 | 内容 |
| 2026年8月〜 | 先行配信チャンネル(Canary、Dev、Beta)で V2 の無効化を開始 |
| 段階的に | 拡張機能の管理画面やストアの製品ページに告知を表示、その後数カ月かけて既定で順次無効化 |
| 2026年末まで | 一般利用者の移行を完了予定 |
| 2027年初頭 | 組織で管理された端末の廃止を開始予定(企業には猶予を確保) |
報道ベースの数字では、Edge ストアで利用の多い V2 拡張機能の約95パーセントはすでに V3 版へ移行済みで、影響が大きく残るのは58本ほど、うち公開版の V3 が存在しないのは3本のみとされています。多くの利用者にとっては、知らないうちに移行が済んでいる可能性が高い、という規模感です。
なお企業向けには猶予が用意され、組織のポリシーで管理された拡張機能については一部の遮断用の仕組みを引き続き使える余地が残されます。社内ツールや業務依存の拡張機能を抱える管理者は、対象の棚卸しと V3 版の有無の確認を早めに進めておくのが安全です。
広告ブロックを続けたい人はどうすればいい?
対処の方向性は大きく3つです。自分の重視点に合わせて選びましょう。
選択肢1:軽量版へ切り替える(Edge を使い続ける)
V3 対応版の軽量ブロッカーへ移行する方法です。導入は簡単で、基本的な広告は十分止められます。ただし高度な遮断は望めないため、追跡や巧妙な広告の一部はすり抜けます。手間をかけたくない一般利用者向けの現実解です。
選択肢2:完全版が動くブラウザーを併用する
従来型の完全版ブロッカーを重視するなら、それが今も動く別ブラウザーを用途別に使い分ける手があります。普段使いは Edge、広告の多いサイトや追跡が気になる場面だけ別ブラウザー、という併用は費用ゼロで効果の高い保険になります。
選択肢3:ブラウザー内蔵の遮断機能を使う
プライバシー保護を標準搭載するブラウザーへ乗り換える方法もあります。拡張機能に頼らず本体側で広告や追跡を抑える設計のため、V3 の制約の影響を受けにくいのが利点です。
注意したいのは、Edge も Chrome も、実は同じ土台の上に作られているという点です。
その共通の土台が Chromium であり、土台側の制約は系統全体で共通です。したがって、この系統のブラウザー内で拡張機能を差し替えても、根っこの弱体化からは逃れられません。
完全版の遮断力を本当に求めるなら、系統そのものが異なるブラウザーを選ぶ必要があります。
IT小僧の本音コラム
「セキュリティーと性能の向上のため」。この説明自体は嘘ではない。外部コードの読み込みを絞り、権限を最小化する方向性は、最小権限の原則(必要最小限の権限しか与えない設計思想)そのもので、システム設計の観点では正論だ。悪意ある拡張機能が通信を丸ごと覗ける状態は、確かに危うい。
ただし、正論と利害は同居する。ブラウザーを握る側の多くは広告で稼ぐ企業でもある。広告を止める道具の力を、安全という大義名分で削れる立場にいる。この構造的な利益相反から目を背けるのは、フェアではない。
忘れてはいけないのは、広告ブロックが単なる快適化ではなく防御にもなってきたことだ。正規の広告網に紛れ込む不正広告経由の攻撃に対し、遮断ツールは一枚の壁として機能してきた。安全のための変更が、別の安全策を細らせる。その皮肉を踏まえたうえで、自分にとっての落としどころを選びたい。
まとめ
Edge の Manifest V3 全面移行は、突然のちゃぶ台返しではなく、数年がかりで予告されてきた流れの最終局面です。多くの利用者は移行済みの拡張機能をそのまま使えますが、従来型の強力な広告ブロッカーに依存してきた人にとっては、明確な転機になります。
やることはシンプルです。まず自分の拡張機能が V3 対応かを確認し、広告ブロックを続けたいなら「軽量版」「別ブラウザー併用」「内蔵機能」の3択から重視点で選ぶ。慌てて乗り換える必要はありませんが、2026年末という区切りは意識しておいて損はありません。
ファクトチェック
【確認済み】Microsoft の2026年8月7日発表。先行チャンネルでの無効化開始、一般利用者は2026年末までに移行完了、企業向けは2027年初頭から廃止開始。V3 で通信制御が webRequest から declarativeNetRequest へ置き換わる点は開発者向け公式資料でも確認できる。
【確認済み】Google 側は2025年7月24日に全利用者で V2 を恒久無効化し、その後回避策も撤去、2026年8月末にストアから削除予定。
【報道ベース・要確認】移行済み約95パーセント、影響が残る拡張機能58本・うち V3 未対応3本、静的ルール上限約3万件、uBlock Origin が扱うルール約30万件、といった数値は各種報道および開発者コミュニティの情報に基づく。細部は今後の公式情報で更新される可能性がある。
※本記事は2026年8月時点の公開情報を基に構成しています。スケジュールや仕様は変更される場合があります。最新の状況は各社の公式発表でご確認ください。