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IT小僧の時事放談

ウェストバージニア州がAppleを提訴:iCloudと児童性虐待資料をめぐる衝突

2026年2月、米ウェストバージニア州がAppleを提訴しました。
争点は、iCloudやAppleデバイスが児童性虐待資料(CSAM)の保存・共有に使われているにもかかわらず、Appleが十分な対策を取ってこなかったのではないかという点です。

本記事では、この訴訟で何が問題視されているのか、米国社会が抱える行方不明・搾取児童の現実、日本におけるCSAM対策やSNS起因の性犯罪の状況までを整理しながら、「プライバシーか児童保護か」という難しいテーマを考えていきます。

 

訴訟の概要:ウェストバージニア州は何を主張しているのか

「iCloudがCSAMの温床になっている」との批判

ウェストバージニア州の司法長官ジョン・B・マッカスキーは、2026年2月19日にAppleを提訴しました。州司法長官事務所の発表によると、主張の骨子は次の通りです。

  • Appleは、自社のクラウドサービスであるiCloudが児童性虐待資料(CSAM)の保存・共有に使われていることを社内で把握しながら、長年にわたり十分な対策を取ってこなかった。
  • Apple自身の内部コミュニケーションの中で、自社を「世界最大の児童ポルノ配信プラットフォーム」と評していたにもかかわらず、業界標準レベルの検知ツールの導入を見送ってきたとされる。
  • 米連邦法はオンラインサービス事業者に対し、検知したCSAMを全米行方不明・搾取児童センター(NCMEC)に報告する義務を課しているが、Appleの報告件数は他社と比べて極端に少ない。

州側は、これらの点から「Appleは問題が少ないのではなく、本気で探していないだけだ」と批判しています。

「Appleは単なるパイプではない」という論点

訴状では、Appleがハードウェア(iPhone・iPad・Mac)、OS(iOS・macOS)、クラウド(iCloud)を一体で提供している点に注目し、

  • Appleは自ら設計・構築した閉じたエコシステムの上でCSAMの流通を可能にし、そこから利益を得ている。
  • そのため、単なる「通信の通り道」である受動的な事業者ではなく、積極的なプラットフォーム事業者としての責任を負うべきだ。

と主張しています。政府機関によるAppleへのCSAM関連の訴訟としては初のケースとされ、今後、他州や連邦レベルの動きに波及する可能性も指摘されています。

Apple側の立場:プライバシーと児童保護の板挟み

「私たちは児童保護にコミットしている」とApple

Appleは訴訟に対して、児童保護へのコミットメントを強調しています。代表的な主張は次のようなものです。

  • 児童の安全は最優先事項であり、iOSやiCloudにはすでに複数の保護機能を実装している。
  • たとえば「Communication Safety」機能では、子ども向けApple IDのアカウントで性的な画像が送受信されそうな場合に警告を出し、画像をぼかして表示するなどの仕組みを用意している。
  • CSAMを見つけたユーザーが報告できる仕組みも拡充しており、全米行方不明・搾取児童センター(NCMEC)との連携も継続している。

Appleとしては、「プライバシーと児童保護を両立させる形で対策を進めている」という立場です。

撤回された「NeuralHash」構想

Appleは過去に、端末上の写真を自動スキャンし、既知のCSAMと一致するハッシュ値があれば通報する「NeuralHash」という仕組みを発表したことがあります。しかし、この構想は、

  • エンドツーエンド暗号化の形骸化につながるのではないか。
  • 政府が「テロ対策」「違法コンテンツ対策」を名目にスキャン対象を拡大させるリスクがあるのではないか。

といった懸念がプライバシー団体やセキュリティ研究者から噴出し、結果的にAppleは実装を撤回しました。

今回の訴訟では、ウェストバージニア州は逆に「そのNeuralHashのような検知ツールをやめたこと自体が、子どもよりプライバシーを優先した証拠だ」と批判しています。ここには、

  • 子どもを守るためなら、プラットフォームはもっと積極的に検知・通報すべきだという考え方
  • 暗号化とプライバシーを守らなければ、国家や企業による監視社会が加速するという懸念

という、両立の難しい二つの価値観がぶつかっています。

米国が抱える「行方不明・搾取児童」問題

NCMECの通報件数は年間3,600万件超

この訴訟の背景には、米国が抱える膨大な行方不明・搾取児童の問題があります。全米行方不明・搾取児童センター(NCMEC)が運営する「CyberTipline」には、2023年だけで約3,620万件の通報が寄せられました。

そこには1億枚を超える画像・動画が含まれており、オンライン上で児童の性的搾取が拡大している実態が浮き彫りになっています。一般市民からの通報だけでも年々増加しており、被害児童本人や近親者からの相談も少なくありません。

「行方不明児童」は年間数十万件レベル

FBIのNCIC(全国犯罪情報センター)に登録される行方不明児童の届け出は、年間で数十万件にのぼります。NCMECは年間数万件規模の行方不明児童案件を支援し、その多くを無事に帰宅させているものの、

  • 家出したティーンがオンラインで性搾取や人身取引に巻き込まれるケース
  • 児童性虐待の映像がCSAMとして拡散し、被害が長期化・永続化するケース

など、オンラインとオフラインの境界は非常に曖昧です。米国では、CSAM問題はすでに「国家規模の危機」として位置づけられています。

なぜ「プライバシー vs 児童保護」が過激な議論になるのか

このような状況から、

  • FBIやNCMECは「強力な暗号化の普及によって捜査が難しくなる」と警鐘を鳴らし、プラットフォームにより積極的な協力を求める。
  • プライバシー団体や研究者は「政府にバックドアを渡せば、市民の監視社会化が止まらない」と反発する。

という構図が生まれています。ウェストバージニア州のApple訴訟は、その最前線の一つと捉えることができます。

日本ではどうなっているか:CSAMと子どもの性被害

児童ポルノ事犯は3,000件超、被害児童は1,400人台

日本でも、児童ポルノやオンライン上の性搾取は深刻な問題です。警察庁やこども家庭庁の資料によれば、令和4年(2022年)の児童ポルノ事犯は、

  • 検挙件数:3,035件
  • 検挙人員:2,053人
  • 被害児童数:1,487人

と報告されており、いずれも前年より増加しています。インターネットを利用した児童ポルノ事犯が大部分を占めており、日本でもオンライン空間が主要な舞台になっていることがわかります。

SNS起因の性犯罪被害児童は1,400人超

最新の警察白書では、SNSがきっかけとなった性犯罪被害(児童買春、児童ポルノ、不同意性交等など)を受けた児童の数は、令和6年中で1,486人とされています。特に小学生の被害が増えている点が深刻で、被害の低年齢化が課題となっています。

児童虐待相談は22万件超え

一方、児童相談所が扱った児童虐待相談は、2024年度に22万件超と過去最多水準となりました。ここには心理的虐待やネグレクトも含まれますが、家庭内で撮影された映像がインターネット上で拡散されるケースなど、虐待とオンラインの性的搾取が結びつく事案も確認されています。

日本の対応:法規制とホットライン、プラットフォームとの連携

日本では、

  • 児童ポルノ禁止法による所持・提供・公然陳列の禁止
  • インターネット・ホットラインセンターを通じた通報・削除要請の仕組み
  • こども家庭庁の「子供の性被害防止プラン」に基づくSNS事業者との協議・啓発活動

などが進められています。違法な画像・動画の削除要請や、検索結果からの除外、フィルタリングソフトの普及など、技術的な対策も拡充されつつあります。

しかし、エンドツーエンド暗号化の普及や海外サービスの増加により、日本でも「事業者にどこまで検知・監視を求めるのか」「誰がその線引きをするのか」という、米国と同様の問題が今後ますます顕在化すると考えられます。

Apple訴訟が突きつける「二つの正義」

ウェストバージニア州がAppleを訴えたことで、改めて浮き彫りになったのは次の二つの価値観です。

  • 子どもを守るためなら、プラットフォームはもっと積極的に検知し、通報すべきだという正義。
  • 個人のプライバシーや暗号化を守らなければ、国家や企業による監視社会が加速するという正義。

AppleがNeuralHashの導入を撤回したのは、後者のプライバシー保護を優先した結果と言えます。しかし、ウェストバージニア州や被害児童の側から見れば、「その選択によって守られなかった命や尊厳がある」という視点があり、両者の主張は簡単には折り合いません。

日本でも、SNSやクラウドサービスが日常インフラとなった以上、「どこまでプラットフォームに責任を求めるのか」「児童保護とプライバシーのバランスをどう取るのか」は、避けて通れないテーマです。

今後の焦点は、

  • AppleがどこまでCSAM対策を強化するのか。
  • 今回の訴訟が他州や連邦レベルの規制強化につながるのか。
  • そして、日本を含む各国がプライバシーと児童保護をどのように両立させるのか。

という点に移っていくでしょう。クラウドと暗号化の時代において、私たち一人ひとりがこの問題を「IT企業 vs 行政」の対立として眺めるだけでなく、自分ごととして考えることが求められています。

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