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IT小僧の時事放談

国産クラウドの苦悩:さくらインターネット赤字転落の真因を読む

世界ではクラウドとデータセンター投資が過熱し、GPU調達競争と電力確保が事業の成否を分けている。
そんな“追い風”の中で、さくらインターネットが上期で赤字転落した。理由は単純な「需要不足」ではない。

本稿は決算資料と市場データをもとに、赤字の真因と中期の見取り図を読み解く。



何が起きたのか:上期で赤字転落

10月28日発表の26年3月期・第2四半期(4–9月)累計は連結経常損益が8.1億円の赤字(前年同期は11億円の黒字)

直近四半期(7–9月)も3.7億円の赤字に沈み、売上営業損益率は前年同期の14.5%から▲5.7%へ急悪化した。

ネットベースの速報でも、最終損益が約6.26億円の赤字と報じられている。
株探+2X (formerly Twitter)+2


表面の“減速”ではなく、内訳は“前倒しの重投資”

さくらのIR資料を見ると、FY25(25年3月期)以降、サーバ・ネットワーク(特にGPU)への投資が計画を大幅に上回って増加

たとえば「サーバ・ネットワーク設備」は計画117→実績238(億円)、「うちGPUクラウド」は**76→214(億円)**と、生成AI関連で前倒しに資金を投じた構図が読み取れる(四半期を跨ぐ調達・設置も含む)

当然、減価償却費やリース負担、据付までの遊休コストが短期損益を圧迫する。
さくらインターネット

加えて、同社の決算説明資料は**「自前主義×国産クラウド」を掲げ、政府・公共を含む国内需要に応える“主権クラウド”の立場を強調するが、これは外資勢と違い、規模の経済で劣る中で国内調達・国内設置を進める**ことも意味し、初期の単位コストが重くなりやすい
さくらインターネット


マクロ環境:電力が“最大の制約”に

日本のデータセンター市場は伸びているが、電力の逼迫とコスト高が構造的な逆風だ。

政府試算でもAI/DC・半導体需要で2050年に発電量35–50%増が必要とし、早くも供給力の増強が政策課題になっている。市場レポートや業界紙も、電力・系統制約がプロジェクト遅延やコスト増を招く現実を繰り返し指摘している。

こうした環境は電力交渉力の強い大手に相対有利に働きやすい。
DataCenterKnowledge+3Reuters+3Wood Mackenzie+3


ハイパースケーラーとの“非対称”

AWS/Google/Azure/Oracleとの違いは、単なる規模差にとどまらない。

  • 資本力と自社設計
    AWSのGraviton/Trainium、GoogleのTPU、MicrosoftのカスタムAIアクセラレータのように、垂直統合で性能/電力/コスト最適化を進める土台がある。
    一方、国内事業者は市販GPU+汎用サーバが中心になりがちで、同一性能を出すための取得原価が高く、減価償却も重い

  • 電力・調達交渉力
    巨大需要家はPPA(電力購入契約)や系統接続で優先順位を取りやすい。結果としてkW・kWh単価、供給安定性、再エネ証書の取得で優位に立てる。

  • 価格メニューと転送課金
    さくらは「データ転送量の従量課金なし」を掲げ、国内ユーザーにとって“見積もりやすい”反面、トラフィックの伸びがそのままコストに跳ねやすい。
    対して外資はエグレス課金
    でトラフィックに応じて徴収し、ネットワークコストを回収しやすい。
    価格哲学の違いが、短期の荒利率に表れやすい。
    高性能・低価格クラウドサーバーはさくらのクラウド

要するに、外資勢は規模・設計・電力・価格回収の全方位で“原価を薄くする杠杆”を持つ。国内プレーヤーは地理的近接やガバメント案件の“目利き”、サポート品質、データ主権対応で差別化する一方、立ち上がり期の損益ブレは避けにくい。


中期は暗いのか:需要は強い、回収タイミングの勝負

国内DC/クラウド需要は、生成AI・自治体クラウド・医療/研究系の計算需要で着実に伸びる。

問題はいつ回収局面に入れるかだ。
IRでも
生成AI向け設備投資の資金調達や政府系案件の拡大が伝えられており、FY26以降の黒字回復シナリオも示唆されている(通期・四半期のIR、見通し修正等)。

ただし、その実現には電力契約の安定化・減価償却の吸収・稼働率の早期引き上げ**が前提になる。
さくらインターネット+2さくらインターネット+2


ユーザー視点:さくらを使う理由と、外資を使う理由

  • さくらを選ぶ理由
    国内設置・国内運用、データ主権/遵法性の安心感国産クラウドの調達要件転送課金なしで読みやすいコスト、国内サポート。公共・医療・研究・製造の近接要件に合う。
    さくらインターネット+1

  • 外資を選ぶ理由
    GPU在庫とリージョンの選択肢、グローバルなマネージドAI/データ分析スタック、PaaS/SaaSの裾野、電力・価格の規模感。AI学習や多国展開の“厚い”周辺サービスで優位。

実務的にはワークロード分散(主権系は国産、グローバル配信は外資、学習は混在)が増えるだろう。赤字は痛いが、国産×AIの受け皿をどこまで磨けるかが、さくらの勝ち筋だ。


まとめ

さくらインターネットの赤字は、需要の不在ではなく生成AI対応の重投資と日本特有の電力制約、価格モデルの違いが重なった“過渡期の痛み”だ。

外資ハイパースケーラーと同じ土俵での“規模の戦い”は分が悪い。一方で、主権・近接・国内サポートという差別化領域は確実にあり、稼働率が乗る局面に入れば収益は改善しうる。

鍵は、電力確保と設備回転、そして案件ミックスである。


参考・出典

  • 26/3期 決算・設備投資の内訳(GPU投資拡大など): さくらインターネット「FY2025決算補足(英語版)」, Apr 28, 2025(PDF)さくらインターネット

  • 25年3月期 決算説明資料(“自前主義×国産クラウド”、外部環境整理): さくらIR(日本語, PDF)さくらインターネット

  • 26/3期 第2四半期 赤字転落の速報: 株探決算速報(2025/10/28)株探

  • 4–9月期 最終損益赤字の報道: 日経関西/X(2025/10/28投稿)X (formerly Twitter)

  • 日本のDC×電力の構造課題(需要急増・制約): Reuters(2024/5/14), Wood Mackenzie/Press(2025/8/26), DataCenterDynamics(2025/8/28)Reuters+2Wood Mackenzie+2

  • 国内クラウドの転送課金ポリシー(さくらは“データ転送課金なし”): さくらクラウド料金ページ 高性能・低価格クラウドサーバーはさくらのクラウド



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