では、なぜ統合が進むのか、そして統合後に私たちの Chromebook はどのように変化していくのでしょうか?米国の最新情報とGoogle幹部の発言から考察してみました。
目次
ChromeOS と Android、交錯する二つの道
ChromeOS は 2011 年に登場し、クラウドとウェブ中心の「軽量でセキュアなコンピューティング」を実現することを目的としていました。一方、Android はスマートフォンを中心に世界最大のモバイルエコシステムを形成し、アプリとサービスの膨大な蓄積があります。
両者は出自こそ異なりますが、すでに交差点は多く存在しています。代表例が ARC (Android Runtime for Chrome) で、Chromebook 上で Android アプリを動作させる仕組みです。この技術が示すのは、Google 自身が両 OS の境界を曖昧にしてきたという事実です。
米国発の報道と Google 幹部の発言
2025 年秋、米メディア Chrome Unboxed や Android Authority が報じたのは、Google の Android 部門責任者 Sameer Samat 氏の発言でした。彼は「ChromeOS のユーザー体験は維持するが、基盤を Android にシフトさせる」という構想を明らかにしています。さらに Qualcomm 幹部がこの新プラットフォームを「incredible(驚異的)」と評したことからも、業界全体での準備が進んでいることがうかがえます。
これは単なる UI の変更ではなく、OS のカーネルやフレームワークを Android ベースに置き換える ことを意味します。つまり表面的には「Chromebook のまま」でも、内側は Android に近づいていくのです。
統合の技術的注釈
では、実際に OS を統合するとはどういうことでしょうか。ここでいくつかの技術的ポイントを押さえておきます。
まず、ChromeOS は現在 Linux カーネルの上に構築されていますが、Android もまたカスタマイズされた Linux カーネルを採用しています。両者を一本化するということは、Linux カーネルレベルでの統合が容易になる という利点を持ちます。開発者にとっては、ドライバやセキュリティパッチの適用が一元化され、メンテナンス効率が高まるのです。
また、Android のフレームワークを取り込むことで、ChromeOS デバイスは Android アプリとの互換性をほぼネイティブレベルで確保 できるようになります。従来の ARC 層を介したエミュレーションではなく、直接 Android フレームワークを走らせることが可能になるわけです。
一方で課題も残ります。ChromeOS が強みとしてきた「ポリシー管理」「教育市場向け機能」「Linux (Crostini) 仮想環境」などは、Android ベースにそのまま移植できるとは限りません。これらの機能を再設計する必要があり、移行期の混乱は避けられないでしょう。
Google が目指すもの
この統合戦略の背後には、Google が進める AI とデバイス統合の大戦略 があります。モバイル、PC、タブレット、さらにはウェアラブルや IoT に至るまで、Android を基盤とすることで、AI アシスタント(Gemini など)がシームレスに動作できる環境を整えるのです。
特に教育現場で普及した Chromebook を Android に近づけることで、アプリケーションの選択肢を広げつつ、Google アカウントや管理コンソールと連動する「エコシステム全体の囲い込み」を狙っていると見るのが自然でしょう。
いつ、どのように実現するのか
米国メディアの多くは、2026 年頃に最初の統合デバイスが登場する と予測しています。ただし完全な移行には数年を要するとみられ、当面は ChromeOS ベースのデバイスと新統合プラットフォームが併存するでしょう。古い Chromebook にはセキュリティ更新のみを継続提供する「レガシーモード」が導入される可能性も指摘されています。
結論:終焉ではなく進化の兆し
「ChromeOS が Android に飲み込まれる」という表現はややセンセーショナルですが、実際には「両者の基盤を統合し、開発リソースを集中させる」というのが本質です。Chromebook は姿を消すのではなく、むしろ Android によって進化し、新しい世代のコンピューティング体験を提供していくことになるでしょう。
読者として注目すべきは、この変化が自分のデバイス利用にどう影響するのかです。教育現場、企業ユース、そして個人ユーザーにとって、統合は制約よりもチャンスとなるのか。今後数年の Google の動きから目が離せません。